名古屋スケッチ
本文約5,600字 ・ 読了時間 約12分
あらすじ(AIが作成しました)
昭和初期の名古屋における都市の変容を、独自の観察に基づきスケッチする。広小路の夜店の活況や近代化する銀行街、かつての情調を失う大須、そして新時代に直面し変容を余儀なくされる中村遊郭を取り上げ、伝統とモダンが混在する都市の相貌を描く。名古屋特有の気質や街並みの歪みといった現象に触れつつ、刻々と変化する市街の風景や風俗を綴る一編。
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はしがき
『名古屋、おきやあせ、すかたらん』
誰が言ひだしたか、金の鯱鉾に、先祖代々うらみを持つた人でもあるまいに、まんざら捨てたものでもない名古屋の方言から、『おきやあせ、すかたらん』を選んで、その代表的のものとするなど、まことにすかたらん御仁と申すべきである。
だが、どうも、その方言の響がミユージカルでないことは、いくら慾目でも、認めざるを得ないところであると同時に、市街全体が、金の鯱鉾に光を奪はれたのか、何となく暗い感じのするのも争はれない真実であらう。『と同時に』を今一つ、名古屋人の心が、薄情で、我利々々だといふことも、口惜しいけれど是認しなければならぬと思ふ。おや、こんな悪口は書くつもりではなかつたのに、つい筆がすべつて……。尤も、われとわが身を悪くいふ癖も、名古屋人間の無くて七癖の一つかも知れぬ。筆者は典型的の名古屋人なのである。
『花の名古屋の碁盤割、隅に目を持つ賤が女も、柔和で華奢でしやんとして、京の田舎の中国の、にがみ甘みをこきまぜて、恋の重荷に乗せてやる伝馬町筋十八丁、其他町の数々を語り申さん聞き玉へ』
これは宝永七年、名古屋で刊行された『今様くどき』の名古屋町尽しの冒頭だがその碁盤割も、大名古屋市となつた今は崩れて、人口八十八万は有難いけれど、日本第三の都市と威張つたならば、その都市の田圃で、盛んにメートルをあげる蛙どもから、げた/\笑はれるにちがひない。従つてその、『柔和で華奢でしやんとして』居る筈の女も、今は追々に姿をかくして、尤も、これは名古屋ばかりの現象ではないけれど、遅がけながら、モダン・ガールといふものが見られるのは御芽出度いとも申さうか、『今様くどき』の著者には、ちよつと面はゆい心地がする。