TRENDIA CLASSIC
名古屋スケッチ
小酒井不木
1 / 7
はしがき
『名古屋、おきやあせ、すかたらん』
誰が言ひだしたか、金の鯱鉾に、先祖代々うらみを持つた人でもあるまいに、まんざら捨てたものでもない名古屋の方言から、『おきやあせ、すかたらん』を選んで、その代表的のものとするなど、まことにすかたらん御仁と申すべきである。
だが、どうも、その方言の響がミユージカルでないことは、いくら慾目でも、認めざるを得ないところであると同時に、市街全体が、金の鯱鉾に光を奪はれたのか、何となく暗い感じのするのも争はれない真実であらう。『と同時に』を今一つ、名古屋人の心が、薄情で、我利々々だといふことも、口惜しいけれど是認しなければならぬと思ふ。おや、こんな悪口は書くつもりではなかつたのに、つい筆がすべつて……。尤も、われとわが身を悪くいふ癖も、名古屋人間の無くて七癖の一つかも知れぬ。筆者は典型的の名古屋人なのである。
『花の名古屋の碁盤割、隅に目を持つ賤が女も、柔和で華奢でしやんとして、京の田舎の中国の、にがみ甘みをこきまぜて、恋の重荷に乗せてやる伝馬町筋十八丁、其他町の数々を語り申さん聞き玉へ』
これは宝永七年、名古屋で刊行された『今様くどき』の名古屋町尽しの冒頭だがその碁盤割も、大名古屋市となつた今は崩れて、人口八十八万は有難いけれど、日本第三の都市と威張つたならば、その都市の田圃で、盛んにメートルをあげる蛙どもから、げた/\笑はれるにちがひない。従つてその、『柔和で華奢でしやんとして』居る筈の女も、今は追々に姿をかくして、尤も、これは名古屋ばかりの現象ではないけれど、遅がけながら、モダン・ガールといふものが見られるのは御芽出度いとも申さうか、『今様くどき』の著者には、ちよつと面はゆい心地がする。
小酒井不木の他の作品
TRENDIA CLASSIC
誤った鑑定
小酒井不木
誤った鑑定
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
暴風雨の夜
小酒井不木
暴風雨の夜
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
ある自殺者の手
記
小酒井不木
ある自殺者の手記
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
按摩
小酒井不木
按摩
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
遺伝
小酒井不木
遺伝
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
暗夜の格闘
小酒井不木
暗夜の格闘
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
江戸川氏と私
小酒井不木
江戸川氏と私
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
印象
小酒井不木
印象
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
犬神
小酒井不木
犬神
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
怪談綺談
小酒井不木
怪談綺談
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
科学的研究と探
偵小説
小酒井不木
科学的研究と探偵小説
小酒井不木
TRENDIA CLASSIC
安死術
小酒井不木
安死術
小酒井不木