桜さく島
本文約3,500字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
青い野原をゆく路上の記憶から、芝居での死の発見、旅芸人の浄瑠璃、幼い頃に訪ねた家での母との再会、雨の日の窓辺の少女、そして炬燵での微かな恋心まで、少年時代の断片的な記憶と心象風景を繊細に綴る短編集。日常のふとした出来事や、現実に溶け込む幻想的な情景を通して、過ぎ去った日々の郷愁や、不可解で切ない少年の内面世界の揺らぎを描く。
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路
青い野原のなかを、白い路がながく/\つヾいた。
母とも姉とも乳母とも、いまはおぼえもない。
おぶさつたその女が泣くので、私もさそはれてわけはしらずに、ほろ/\泣いてゐた。
女の肩に頬をよせると、キモノの花模様が涙のなかに咲いたり蕾んだりした、白い花片が芝居の雪のやうに青い空へちら/\と光つては消えしました。
黄楊のさし櫛がおちたのかと思つたら、それは三ヶ月だつた。
黒髪のかげの根付の珠は、空へとんでいつては青く光つた。
また赤い簪のふさは、ゆら/\とゆれるたんびに草原へおちては狐扇の花に化けた。
少年の不可思議な夢は、白い路をはてしもなく辿つた。
[#改ページ]
死
花道のうへにかざしたつくり桜の間から、涙ぐむだカンテラが数しれずかヾやいてゐた。はやしがすむのをきっかけに、あの世からひヾいてくるかとおもはれるやうなわびしい釣鐘の音がきこえる。
金の小鳥のやうないたいけな姫君は、百日鬘の山賊がふりかざした刃の下に手をあはせて、絶えいる声にこの世の暇乞をするのであつた。
「南 無 阿 弥 陀 仏」
きらりと光る金属のもとに、黒髪うつくしい襟足ががっくりとまへにうちのめつた。血汐のしたヽる生首をひっさげた山賊は、黒い口をゆがめてから/\からと打笑つた。
あヽお姫様は斬られたのか。
それは少年のためには「死の最初の発見」であつた。
もう姫君は死んだのだ、死んでしまへば、もうこの世で花も、鳥も、歌も、再びきくこともみることもできないのだ。
涙は少年の胸をこみあげこみあげ頬をながれた。
「死顔」も「黒き笑も」泪にとけて、カンテラの光のなかへぎらぎらときえていつた、舞台も桟敷も金色の波のなかにたヾよふた。
その時、黒装束に覆面した怪物が澤村路之助丈えと染めぬいた幕の裏からあらはれいでヽ赤い毛布をたれて、姫君の死骸をば金泥の襖[#ルビの「ふすま」は底本では「うすま」]のうらへと掃いていつてしまつた。
死んだのではない、死んだのではない、あれは芝居といふものだと母は泪をふいてくれた。