三年
本文約3,800字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
空襲が激化する東京を離れ、郷里の山形県金瓶村へ疎開した著者が、三年間の体験を振り返る随筆である。戦時下の逼迫した輸送状況や、歯科医での義歯修繕といった苦難を経て郷里へ辿り着いた著者は、村での疎開生活や、そこで目の当たりにした蟻の闘争を通じて、自身の置かれた境遇と戦争の現実を見つめる。戦後、変わり果てた東京へ戻った著者が、灰燼に帰したかつての場所で、未来への展望と確信を込めて往時を回想し、その心境を綴る。
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三年と云つても、この三年といふものは、三十年ぐらゐの気持であつた。荷作したまま荷が動かず、紹介してもらつた丸通の課長でさへ、『斎藤さん、もう手おくれですよ』などと云つたほどであつた。
渋谷駅に行つて見ると、いはゆる『疎開荷物』といふものが小山ほどに積まれて居る。然もこの小山ほどといふのは、誇張でない、ぎつしりと隙間のないまでに積まれてゐるので、自分は来る度毎に驚き愕いたものである。なぜ驚いたかといふに、まさかこれほど沢山の荷物が集まつて居るとは、想像もしなかつたからである。いつたいこんなに沢山に集まつてゐる荷物はどうして動くのだらうか。空襲は日毎時毎に劇しくなつて来る。このまま空襲に会つたら、尽く焼けてしまはねばならぬのである。愕くのはさういふ点にもあつた。そこへ次から次へと荷を満載したトラツクが来る。荷を満載した馬車が来る。汗みどろになつて人の挽いて来るリヤカーがあるといつた調子で、かういふ方面に全くの素人である自分の如き者にとつては、『名状すべからざる』光景といふべきものであつた。
しかるにこの如き状態の荷物は、毎日動いて居るのである。此処に集まつた限りの荷物は兎に角動いて居るのである。名状すべからざるこの光景は少しづつ整理されつつあるのである。自分はこの運輸機関といふものを讃歎したのであつた。『実に偉いものだ』と独語したのであつた。実に『偉大なる存在』として受取れたのであつた。