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TORENDIA

ヴエスヴイオ山

本文約3,700字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

ポンペイを見物した著者は、ヴエスヴイオ山への登山を決意する。当初は驢馬による登山を検討するが、一人旅であるため危険を避け、レジナ駅から登山軌道を利用する。山頂は悪天候と濃い霧に覆われ、期待していた火口の展望は叶わず、現地の導者による強引な要求に憤りを感じながらの登山となる。下山後、雲が晴れる様子を眺めつつ、かつての文人たちも同様の苦難を経験したことに思いを馳せ、ナポリへと帰還する過程を綴る。

斎藤茂吉

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🎧 ヴエスヴイオ山 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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ポンペイの街をやうやく見物してしまつて、午過ぎて入口のところの食店で赤葡萄酒を飲み、南伊太利むきの料理を食べて疲れた身心を休めてゐる。それから、此処で発掘した小さい瓶子などを並べて売るのをのぞくが、値が相当に高いので買ふ気にならない。

そこに、数人の導者が来て、ヴエスヴイオ登山をすすめて止まない。此処から登山するとせば、驢馬に乗つて行く、その方が登山鉄道で行くよりも賃銭も安く、遙々観光に来た旅人にとり興味あることであり、一つ一つの経験を印象するにはこれに越したことはないといふのである。

向うには、ヴエスヴイオの山は半腹に白雲が動いて居り、頂が晴れて噴煙が立ちのぼつて居る。陰霽常なきこの山としては幸運な天気と謂つていい。それに、登山軌道の出来ない前には、旅人は皆、馬車に乗り、驢馬に乗り、山の頂近くなると徒歩し、難渋して登山したものである。ある記事には、闇黒に松明の火を振り振り、導者らが、原始的な民謡を歌ひはじめることなどが書いてある。ある記事には、隠者の窟に年老いた隠者が繩の帯をしめて、旅客に食を饗し、酒を飲ませるところなどが書いてある。ゲーテなども、確か驢馬に乗つて葡萄圃の間あたりを縫ひながら、それから苔の生えた熔巌の上などを難渋して歩いたのであつただらうか。

即興詩人には、『熔巌は月あかりにて見るべきものぞとて、我等は暮に至りてヱズヰオに登りぬ。レジナにて驢を雇ひ、葡萄圃、貧しげなる農家など見つつ騎り行くに、漸くにして草木の勢衰へ、はては片端になりたる小灌木、半ば枯れたる草の茎もあらずなりぬ。夜はいと明けれど、強く寒き風は忽ち起りぬ。将に没せんとする日は熾なる火の如く、天をば黄金色ならしめ、海をば藍碧色ならしめ、海の上なる群れる島嶼をば淡青なる雲にまがはせたり。真に是れ一の夢幻界なり。湾に沿へる拿破里の市は次第に暮色微茫の中に没せり。眸を放ちて遠く望めば、雪を戴けるアルピイの山脈氷もて削り成せるが如し』かういふいい文章がある。

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