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TORENDIA

車中有感

本文約2,300字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

汽車の旅において、窓外の流れる風景を眺めることを好む筆者は、車中で偶然出会った洋装の美しい姉妹と幼児の姿に目を奪われる。天平時代の彫刻を彷彿とさせる清潔な日本美を感じさせるその姉妹の髪型や佇まいに、筆者は現代における日本美の兆しを見出し、スケッチ帳に写生する。あどけない幼児と触れ合い、心温まるひとときを過ごした筆者が、車中で見出した美的な体験と、それを通して感じた日本美への想いを綴る随筆である。

上村松園

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🎧 車中有感 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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汽車の旅をして、いちばん愉しいことは、窓にもたれて、ぼんやりと流れてゆく風景を眺めていることである。

いろいろの形をした山の移り変りや、河の曲折などを眺めていると、何がなし有難い気持ちになって、熱いものを感じるのである。

ふっと、一瞬にして通りすぎた谷間の朽ちた懸け橋に、紅い蔦が緋の紐のように絡みついているのを見て、瞬時に、ある絵の構図を掴んだり、古戦場を通りかかって、そこに白々と建っている標柱に、何のそれがし戦死のところ、とか、東軍西軍の激戦地とかの文字を読んで、つわものどもの夢の跡を偲んだりするのは無限の愉しみである。

汽車に乗ると、すぐ窓辺にもたれて、窓外の風景へ想いをはしらすわたくしは――実は車内の、ごたごたした雰囲気に接するのを厭うためででもあった。

汽車の中は、ひとつの人生の縮図であり、そこにはいろいろ社会の相が展開されているので、それらの相を仔細に眺めていると、いろいろと仕事のほうにも役立つ参考になるものがあるのであるが、わたくしには、ときたまに見受ける公徳心を失った、無礼な乗客の姿に接することが、たまらなく厭おしいので、そういうものをみて、自分の心をいためることのいやさから、自然に窓の外へと、自分の眸を転じてしまう癖がついてしまったのである。

窓外の風景には、自分の心をいためるものは一つもない。そこにあるのは、いずれも、自分の心を慰め柔げてくれる風景ばかりである。

ところが、わたくしは偶然にも、真珠のような美しいものを一昨年の秋、上京の途上にその車中で眺めたのである。あとにも先にも、わたくしは車中で、このような美しいものを感じたことは一度もない。それは、幼い児を抱いた、若い洋装の母の姿であり、その妹の姿であり、その幼児のあどけない姿であった。

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