楢ノ木大学士の野宿
本文約17,400字 ・ 読了時間 約35分
あらすじ(AIが作成しました)
宝石学の専門家である楢ノ木大学士は、宝石商から最高級の蛋白石を探す依頼を受け、宝石を求めて旅に出る。葛丸川の河原で野宿をした大学士は、夜の闇の中で岩頸や鉱物同士の会話を聞く不思議な体験をする。帰宅した大学士は、依頼主に対し採取した蛋白石を披露するが、それらは期待されたような最高級の宝石ではなく下等な石となっていた。納得のいかない宝石商を追い返し、大学士は不敵な笑みを浮かべる。
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楢ノ木大学士は宝石学の専門だ。
ある晩大学士の小さな家へ、
「貝の火兄弟商会」の、
赤鼻の支配人がやって来た。
「先生、ごく上等の蛋白石の注文があるのですがどうでしょう、お探しをねがえませんでしょうか。もっともごくごく上等のやつをほしいのです。何せ相手がグリーンランドの途方もない成金ですから、ありふれたものじゃなかなか承知しないんです。」
大学士は葉巻を横にくわえ、
雲母紙を張った天井を、
斜めに見上げて聴いていた。
「たびたびご迷惑で、まことに恐れ入りますが、いかがなもんでございましょう。」
そこで楢ノ木大学士は、
にやっと笑って葉巻をとった。
「うん、探してやろう。蛋白石のいいのなら、流紋玻璃を探せばいい。探してやろう。僕は実際、一ぺんさがしに出かけたら、きっともう足が宝石のある所へ向くんだよ。そして宝石のある山へ行くと、奇体に足が動かない。直覚だねえ。いや、それだから、却って困ることもあるよ。たとえば僕は一千九百十九年の七月に、アメリカのジャイアントアーム会社の依嘱を受けて、紅宝玉を探しにビルマへ行ったがね、やっぱりいつか足は紅宝玉の山へ向く。それからちゃんと見附かって、帰ろうとしてもなかなか足があがらない。つまり僕と宝石には、一種の不思議な引力が働いている、深く埋まった紅宝玉どもの、日光の中へ出たいというその熱心が、多分は僕の足の神経に感ずるのだろうね。その時も実際困ったよ。山から下りるのに、十一時間もかかったよ。けれどもそれがいまのバララゲの紅宝玉坑さ。」
「ははあ、そいつはどうもとんだご災難でございました。しかしいかがでございましょう。こんども多分はそんな工合に参りましょうか。」
「それはもうきっとそう行くね。ただその時に、僕が何かの都合のために、たとえばひどく疲れているとか、狼に追われているとか、あるいはひどく神経が興奮しているとか、そんなような事情から、ふっとその引力を感じないというようなことはあるかもしれない。しかしとにかく行って来よう。二週間目にはきっと帰るから。」
「それでは何分お願いいたします。これはまことに軽少ですが、当座の旅費のつもりです。」
貝の火兄弟商会の、