TRENDIA CLASSIC

雅俗貧困譜

岸田國士

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人物

押川 進  三十一

妻なる子  二十四

持山六郎  三十二

妻なぞえ  二十五

陽々軒女将 三十五

摺沢    六十

紙屋    二十五

印刷屋   十八

製本屋   四十五

彦     十六

場所

東京の裏街の二階家。電話もない小出版社、北極書院の事務所兼住宅。階下は玄関とも三間で、中央の八畳に、テーブルを二つ並べ、これが主人押川進の事務を取るところ。部屋の周囲には、堆高き書籍の山。

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押川進がテーブルに倚つて、切りに帳簿を調べてゐる。

なる子が左手からはひつて来る。

なる子  お酒屋だけなんとかならないでせうか。 押川  ならないね。 なる子  半分だけでいゝわ。 押川  駄目だ。 なる子  四十円なにがしよ。 押川  問題はなにがしにあるんぢやない。一銭も、そつちいは出せないよ。

なる子、黙つて去る。

押川、口笛を吹きはじめる。が、算盤の手は休めずに、時々、厳粛な顔をして、帳簿をのぞき込む。

玄関の格子が開く。紙屋である。

押川  あ、今、電話をかけようと思つてたんだ。もう少し後にしてくれないか。 紙屋  何時頃ならよろしいでせう。 押川  さあ、その時間になつてみないとわからないが、まあ、十二時過ぎとしといてみてくれ。 紙屋  それや困りますなあ。 押川  困る! ぢや、きつかりでもいゝや。 紙屋  間違ひなく頂けませうか。 押川  そんなことを訊いてどうするんだ、君、そこは信用ぢやないか。 紙屋  その信用が、どうもね。 押川  ぢや、仕方がない。結果を見よう。今ちよつと忙しいから、またゆつくり……(算盤を置きはじめる) 紙屋  (出て行きながら)なんべんも無駄足をさせないで下さいよ。

やがてまた、なる子が、通帳をもつて現はれる。

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