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TORENDIA

世帯休業

本文約12,700字 ・ 読了時間 約26分

あらすじ(AIが作成しました)

倦怠期を迎えた渋谷八十一と妻は、夫婦生活の休暇として「世帯休業」を試みる。そこへ帰宅した下宿人の詩人鳥羽や友人の茶木、妻の母らが加わり、家の中は騒がしくなる。やがて親族の危篤と遺産の話が舞い込み、夫婦は金銭の話題で動揺するが、それは嘘であると判明する。世帯休業を掲げながらも、結局は日常へと戻っていく夫婦の姿と、その周囲の人々とのやりとりを描く戯曲。

岸田國士

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人物

夫 渋谷八十一

妻

詩人 鳥羽

妻の母

君い女 かも子

夫の友人 茶木

八百や

[#改ページ]

第一場

舞台は、すべて戸締りをした家の内部。正面やゝ高きところに鉄格子をはめたスリ硝子の小窓。外の光がその小窓から射し込んで、茶の間の一部をかすかに浮き出させてゐる。

表で戸をたゝく音。

声  留守ですか、僕です。おい、僕ですよ、奥さん、鳥羽ですつたら……。

やがて、正面の小窓が開く。長髪の男が家の中をのぞき込む。

男  今頃家をあけるなんて、しやうがないなあ。僕はまあ仕方がないとして、御亭主が帰つて来たら、問題だぜ、これや……。それとも、僕が国へ帰つたのを幸ひ、今日は夫婦連れで浅草へでも出掛けたかな。さうだとすると、僕は鍵をもつてないから、家ん中へはひることができない。どれ、鞄を縁の下へでも放り込んどいて、ひとつ、鴨子嬢のところへ遊びに行つて来よう。(硝子戸を締め、立ち去る)

この時、勝手の方から、洋服姿で折鞄を抱へた男が、のつそり部屋の中に現はれ、茶の間を横ぎつて座敷の方へ行く。しばらくして、またインバネスに手提鞄を提げた男が、同じく勝手の方からはひつて来る。後から来た男は、そこへ立ち止つて、奥の方をすかしてみる。

男  (半ば恐る恐る)誰だ、そこにゐるのは? 奥の声  さういふ君こそ誰だ。 男  名前を言つても、恐らくは知るまい。 奥の声  なんの用があつて、はひつて来た? 男  それは、こつちからきゝたいくらゐだ。 奥の声  僕は、この家の主人だ。 男  戯談言ふな。おれはこの家の下宿人だ。 奥の声  鳥羽さんなら国へ帰つてる筈だ。 男  おや、おれの名前を知つてやがるな。君はおれの詩を読んだことがあるか? 奥の声  無理に読まされたことはあるが、面白くないから、読んだふりだけしておいたんだ。 男  ところが、そんなふりをしたつて、なんにもならないんだ。こつちは、どうせ、書き損ひしか読ませないんだ。それはそれとして、奥さんはどうしたんです。 奥の声  しばらく家にゐないんです。あんたは予定変更ですか。

雨戸を繰りはじめる。家の中が急に明るくなる。

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