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TORENDIA

女房文学から隠者文学へ

本文約34,700字 ・ 読了時間 約70分

あらすじ(AIが作成しました)

宮廷の女房と歌合せの密接な関係を論じる。かつて巫女として主の言葉を伝えた女房の職掌は、やがて御製の筆録や発表を担う役割へと変化する。宮廷の歌合せは、古来の歌垣に由来する唱和・贈答の形式を受け継ぎつつ、詩合せの影響や文学意識の芽生えを経て独自に発展した。本書は、こうした女房の職掌展開と文学様式の変遷を辿り、後鳥羽院の歌風や新古今集へと繋がる時代の美意識と創作態度の移り変わりを解明する。

折口信夫

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一 女房歌合せ

数ある歌合せのうちに、時々、左の一の座其他に、女房とばかり名告つた読人が据ゑられてゐる。禁裡・仙洞などで催されたものなら、匿名の主は、代々の尊貴にわたらせられる事は言ふまでもない。公家・長上の家で興行せられた番の巻物なら、其処の亭主の君の作物なる事を示してゐるのである。此は、後鳥羽院にはじまつた事ではなかつた。かうした朗らかな戯れも、此発想競技と、女房との間に絡んだ幾代の歴史を踏まへて、極めて自然に現れて来たのである。

私は、此文の書き出しに、都合のよい機会に行きあうた様だ。文学史に向けて持つて来た、私の研究の立ちどの、知つて置いていたゞけさうなよい事情になつて来たことである。現在ある様式や、考へ方は、幾度幾様とも知れぬ固定や、其から救ひ出した合理化の力を受けて来たのだ。宮廷は勿論、上流公家の家庭生活の要件として、曾ては生きてゐた儀礼が、固定を重ねつゝ伝承せられて来た。女房と歌合せとの関係も、そこにあるのだ。

大きな氏族或は邑落では、主長の希望や命令を述べた口頭文章が、公式には、段々複雑な手順を経て伝達せられる様になつた。が、非公式に出るものは、家あるじの側に侍る高級官女――巫女の資格を以て奉仕した――に口授せられたものが、其文句の受けてに其まゝ伝達せられたのである。宮廷の内侍宣など云ふ勅書は、此しきたりから生れたのだ。「上の女房」と言はれたものは、言ふまでもなく、宮廷の官女はすべて、前期王朝には、神の摂政たる主上に仕へる巫女であつた。宮廷と生活様式を略一つにした氏族の長上――後期王朝の古い家筋の公家は、其が官吏化したもの――も、古代には、邑落や、民団の主長としての――神となれる――資格を持つた。其に伴つて、氏族の巫女を使うて、さうした用をさせてゐた事は察せられる。「宣旨」と言ふ女房名の、広く公家にも行はれたのは、此因縁である。手続きの簡単な宣が、文書の形を採つたのは、公式の宣命・詔旨などの様式の整備せられたのに連れて、起つた事らしい。

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