TRENDIA CLASSIC

椎茸と雄弁

岸田國士

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舞台は全体を通じ黒無地の幕を背景とし、人物の動きを規定する最小限の小道具を暗示的に配置する。

各場面の転換は暗転式とし、装置にはなんらの変更を加へず、時間の無意味な断絶を避ける。

ファンタスチックな伴奏音楽を使つてもよい。

人物の扮装は、できるだけ様式化したものでありたい。

一ノ一

昭和農産工業社の社長室。

アカハラ、考へ込みながら登場。室内をぶらぶら歩きまはる。

アカハラ  すべてやり方を変へなけれやならん。政治も教育も、今までは、まるであべこべのことをやつてゐたやうなもんだ。商売もその通り、目前の利益ばかり考へて、いつたい何ができる? しかし、問題は、損をして得をとる機会がいつ来るかといふことだ。損はこつち、得は向うではなんにもならん。昭和農工創立二十年、おれも来年は五十九だ。便々として靴のかゝとを擦りへらしてゐる年ぢやない。市会議員当選の夢もいまだに夢のまゝ残つてはゐるが、郷土産業発展の捨て石になる覚悟をきめた以上、名をとるか、実をとるか、こゝが思案のしどころだ。名実相伴ふ行動が無理とあれば、平凡ながら名を後に、実を先にといかうか? いやいや、それでは旧態依然、なんの変りばえもない。さて、社内の刷新といふことだが、手をつけるとすれば、まづ、人員整理といふことになる。人間の屑ばかりよくも集めたもんだ。製産コストは上る。販売ルートは塞がる。事務能率はめちやめちやに下る。これでいつたい赤字の出ないわけがあるか? そこへもつて来て、交際費の膨脹と来てゐる。今後は絶対に卑屈な取引はやめだ。お茶いつぱいで商談といかう。事務所でお茶をいちいち出す必要はないといふ、さる方面の意見はなるほど尤も千万だ。おうい、製作部長、営業部長、ちよつと来たまへ。

ノロミとナベタ登場。

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