第一話
一
海底の美しい景観のなかに、若い海女が一人、自由奔放な姿で現れる。腰に綱をつけてゐるのがはつきりわかる。海女は、岩の間を潜り、海草の茂みを分け、アハビ貝を探してゐる。アハビを二つ腰にさげた網に入れる。そして、綱を激しく手で引く。綱は上から手繰りあげられ、やがて、海女は水面に顔を出す。
水面には、一艘の小舟が待つてゐる。海女が舟べりに手をかけるのと、小舟の上の男が両手で彼女の腕をとるのと同時である。
「えらくひまどつたな。心配させるなよ」
男は、海女の夫、浦島太郎である。
「もう、このへんには、いくらもないよ」
海女の名は、サヾエ、まだ新婚の初々しさを失つてゐない。舟に上り、ぐつたりと夫の肩にもたれかゝるやうにして、
「今日はこれくらゐにしておかうか」
「うむ、無理をせんがいゝ。どれ、おまへ、顔色がよくないぞ。早う、帰らう、帰らう」
二
小舟は岸に向つて滑り出す。
夫婦一組を乗せた舟があちこちに見える。
「わあ、太郎のとこは、もう、しまひか」
「えらく急いで、なにしに行くだ」
舟を浜にあげようとするが、なかなかあがらない。太郎は妻が手をかさうとするのを止めたからである。
「いゝから、おまへは、先へ帰つて、休みな。舟は子供たちに手伝はせて、あげちまふから……」
妻のサヾエは、足もとがふらつくのを、我慢して歩き出す。
「おーい、そこにゐるチビコロたち、ちよつと、みんな来い」
舟は子供たちの手で陸へ押しあげられる。
子供らは、それがすむと、そのうちの一人が持つてゐる小さな亀を砂の上におかせて、遊びはじめる。仰向けにしたり、小石をぶつけたり、砂の中に埋めたりする。
太郎は、それを見ると、子供らのなかへ割つてはいり、
「やい、そんなに生きものをいぢめるもんぢやない。かわいさうに……。ほかに、いくらでも、いたづらはできるぢやないか」
子供の一人が、それにこたへて、
「これより面白いいたづらつていふと、なにがあるね、浦島のをぢさん」
「この野郎、大人をからかやがッて……。さ、さ、その亀は、をぢさんが駄賃をやるから、海へ放つてやりな。そら、飴でも買つて、みんなで、しやぶれ」