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TORENDIA

雪の夜

本文約11,100字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

大晦日の別府、雪が降る流川通で易者を営む坂田は、かつて大阪で親交のあった松本と再会する。かつて道頓堀で踊子だった照枝と共に別府へ流れてきた坂田は、窮乏した生活を送っていた。松本からかつての面影を重ねられ、言葉を交わすうちに、坂田の心には困窮する照枝を大阪へ帰したいという思いが強く込み上げる。坂田は松本の名刺を千切り、雪の降る夜道、病身の照枝が待つ質素な住居へと急ぎ足で帰路につく。

織田作之助

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大晦日に雪が降った。朝から降り出して、大阪から船の著く頃にはしとしと牡丹雪だった。夜になってもやまなかった。

毎年多くて二度、それも寒にはいってから降るのが普通なのだ。いったいが温い土地である。こんなことは珍しいと、温泉宿の女中は客に語った。往来のはげしい流川通でさえ一寸も積りました。大晦日にこれでは露天の商人がかわいそうだと、女中は赤い手をこすった。入湯客はいずれも温泉場の正月をすごしに来て良い身分である。せめて降りやんでくれたらと、客を湯殿に案内したついでに帳場の窓から流川通を覗いてみて、若い女中は来年の暦を買いそこねてしまった。

毎年大晦日の晩、給金をもらってから運勢づきの暦を買いに出る。が、今夜は例年の暦屋も出ていない。雪は重く、降りやまなかった。窓を閉めて、おお、寒む。なんとなく諦めた顔になった。注連繩屋も蜜柑屋も出ていなかった。似顔絵描き、粘土彫刻屋は今夜はどうしているだろうか。

しかし、さすがに流川通である。雪の下は都会めかしたアスファルトで、その上を昼間は走る亀ノ井バスの女車掌が言うとおり「別府の道頓堀でございます」から、土産物屋、洋品屋、飲食店など殆んど軒並みに皎々と明るかった。

その明りがあるから、蝋燭も電池も要らぬ。カフェ・ピリケンの前にひとり、易者が出ていた。今夜も出ていた。見台の横に番傘をしばりつけ、それで雪を避けている筈だが、黒いマントはしかし真っ白で、眉毛まで情なく濡れ下っていた。雪達磨のようにじっと動かず、眼ばかりきょろつかせて、あぶれた顔だった。人通りも少く、こんな時にいつまでも店を張っているのは、余程の辛抱がいる。が、今日はただの日ではないと、しょんぼり雪に吹きつけられていた。大晦日なのだ。

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