ハナとタマシヒ
本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
幼い頃の筆者は、鼻水は脳が腐ったものだという友人の言葉を信じ込み、周囲に披露して大笑いされる。また、眼を閉じて圧迫した際に見える光の輪を、魂の正体だと教えられ、疑うことなく信じ続ける。本書は、子ども特有の純粋で奇妙な誤解や迷信を巡る子供時代の記憶を綴る。科学的な正解を知るまでの揺れ動く心情や、大人になった今もふと思い返しては懐かしむ、幼い日の不思議な体験を描く随筆である。
💰 この本を応援する(投げ銭)
ハナ
いつごろだつたのか、誰であつたか、多分、渡辺千代子さんだつたと思ふが、私をそつと手招きして、校庭のすみへつれて行つた。そして小さな声で、
「あのね、ハナッて、何んだか知つてる?」
「ハナ? ハナッて……この鼻?」と私は鼻を指先で叩いてみせた。
「うん、出てくる鼻汁よ」
「うゝうん、知らない」と首をふると、
「あのね、ハナはノーミソの腐つたものなんですつてさ……」千代ちやんは大げさに、まるくて茶色いその眼を、一層まるくしてさう教へてくれた。
「ふうん? さうお?」と私は云ふ。
真面目になつて教へる方も教へる方だが、「ふうん」と感心してきいてる者もきいてる者だ。が、だから面白い。ノーミソッて云ふのは、頭のこのオデコから上に這入つてゐる、大事なものだとは私は知つてゐた。してみれば鼻とは甚だ近いんだから、ほんとなんだらうとも思へる。
きつと、ノーミソは、あんまり沢山のことを覚えるんで満員になるんだな。だから古いのがハナになつて出ちやつて、後から新しいノーミソが代るんだらう。忘れるッてのはノーミソが腐つちやふんだな。ははあ、そして外へ行つちやふから思ひ出せないのか、はあーんナルペソ。私はさう判断して一人で感心してゐた。
しかし、妙なところもある。ウーンマテヨ、けど風邪をひくとなぜノーミソが沢山くさるんだろ。そいから、よく勉強するとノーミソを沢山使ふんだから、ハナも沢山出ておぼえる代りに忘れるのも多くなりさうなもんだ。だのによく勉強すると頭がよくなつて、物おぼえがます/\よくなる。……変だな。青ッパナは、たしかにノーミソの腐つたのにみえるが、ぢやあ水ッパナの方は何なんだろ。……
いよ/\不思議な気がしないではなかつたが、訊ねようにも何だかキタナイことを云ふ様で、そのまゝ半分は信じてもちこしてしまつた。
女学校へ這入つた年だつたと思ふ。何かの話のついでから……いゝや誰かハナをかんだので、私が言ひ出したんだつたかな、たぶんさうだ。私はすました顔で、