青いポアン
本文約16,500字 ・ 読了時間 約33分
あらすじ(AIが作成しました)
学校で「青いポアン」という綽名で呼ばれる明子は、精神的な特異さを抱え、画家・伊曾の情婦であった上級生・劉子と関わる。一方で明子は村瀬という青年と密接な関係を築くが、村瀬は伊曾の翻訳した本に記された内容に翻弄され、心身を消耗させていく。本作は、明子が抱える特異な母性や感性、そして伊曾を中心とした人物たちの歪な関係性や精神的な葛藤を、夢幻的かつ退廃的な色彩を交えて描く。
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第一部
明子は学校でポアンといふ綽名で通つてゐた。ポアンは点だ、また刺痛だ。同時にそれが、ポアント(尖、鋭い尖)も含めて表はしてゐることが学校仲間に黙契されてゐた。特に彼女の場合、それは青いポアンであつた。
明子はポアンといふ名に自分の姿が彫り込まれてゐるのに同感した。のみならず、この綽名を発見した或る上級生に畏怖に似た感情を抱かずには居られなかつた。同時に敵手ともして。
――あの子は硬い一つのポアンよ。
その上級生が或るとき蒼ざめて学友に言つた。そして色については次の様に言ひ足した。
――しかも青いポアンだわ。
学友たちはどうしてこの少女が蒼ざめたのか知らなかつた。しかしこの奇妙な綽名は鋭敏な嗅覚の少女たちの間にすばやく拡つて行つた。この符牒の裏にポアント――鋭い尖、の意味を了解したのも彼等独特の鋭い感応がさせる業にほかならなかつた。
その郊外の日当りのいい学園には沢山の少女たちが、自らの神経によつてひなひなと瘠せ細りながら咲いてゐた。彼らの触手が学園のあらゆる日だまりに青い電波のやうに顫へてゐた。その少女たちが蕁麻の明子をどうして嗅ぎつけずにゐよう。彼女らの或る者は嗅ぎつけない前に、この蕁麻に皮膚を破られて痛々しく貧血質の血を流した。
明子は畸形的に早い年齢に或る中年の男と肉体的経験を有つてゐた。彼女自身にとつては全く性的衝動なしに為し遂げられたこの偶発事件は、彼女を肉体的にではなしに、精神的にのみ刺戟したかの様であつた。混血の少女たちによく見られる蒼ざめた痿黄病的な症状が彼女を苦しめはじめた。とぎ澄された彼女の神経は容赦なく彼女自身のうちに他の少女たちと異つた要素や境遇を露はにした。神経は残酷なやり方で生理を堰きとめてしまつた。少女たちが瘠せ細りながらも神経がやや脂肪づき、兎に角卯薔薇ほどの花になつて咲く年齢になつても、明子だけは依然色を失くした蕁麻として残つた。これには更に一つの理由として、彼女の心臓の弱さを附け加へることが出来る。