TRENDIA CLASSIC

水に沈むロメオとユリヤ

神西清

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弗羅曼の娘、近つ代の栄えのひとつ、

弗羅曼の昔ながらに仇気ない……(オノレ・ド・バルザック)

黄昏の街が懶く横たはつたまま、そつと伸びあがつて自分の溝渠に水鏡した。――この様な句を読むとすると、嘗てロデンバックの短篇集を繙いたことのある人ならきつとあの廃都ブリュジュの夕暮を思ひ描くに相違ない。そして彼等は聴くであらう、同時に近くから遠くから涌き起る洞ろな鐘のひびきを、続いて無数の黄ばんだ祈りの声を。のみならず、たとへば私なら、もつと先を想像することが出来る。――そんな夜更け、ゴチック風の表飾りのある旅館の湿気た寝台のうへには、滅びた恋の野辺の送りをするために、屍灰さながらの味ひを互の唇のうへになほも吸ひ合ふ恋人たちの横たはつてゐるのを。……何といふ頽廃、何といふ無気力と人は言ふであらう。然り、私もそれは知つてゐる。けれど、私たちが如何様に自分の住む此の近代の都市を誇称しようとも、そして昼夜のあらゆる時を通じて其処に渦巻くどんな悪徳や鋭ぎ澄ました思想によつて昂奮し偽瞞されてゐようとも、やはり私たちの都市の疲れてゐることは事実である。そして嘗ては或る役所の吏として夕暮から夜更けの川筋を巡邏の軽舟に揺られて行つたことのある私にとつては、私が此の物語を始めた句はさほど私たちの都市東京にそぐはないものとも思へない。

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