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TORENDIA

それでも私は行く

本文約87,900字 ・ 読了時間 約176分

あらすじ(AIが作成しました)

京都・先斗町の茶屋の息子であり、三高生である美少年の梶鶴雄は、ある日、円山公園での待ち合わせをサイコロの目によって取りやめ、あてもなく街を彷徨う。敗戦後の京都を舞台に、鶴雄を中心に、芸者の君勇や舞妓の鈴子、かつての旦那である三好ら、戦後の混乱と閉塞感の中で生きる人々が織りなす人間模様と、ある殺人事件に端を発する複雑な関係性を描く。

織田作之助

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四条河原町

一

先斗町と書いて、ぽんと町と読むことは、京都に遊んだ人なら誰でも知っていよう。

しかし、なぜその町――四条大橋の西詰を鴨川に沿うてはいるその細長い路地を、先斗町とよぶのだろうか。

「ポントというのはポルトガル語で港のことだ。つまり鴨川の港という意味でつけた名だと思う」

と、ある人が説明すると、

「いや、先斗町は鴨川と高瀬川にはさまれた堤だ。堤は鼓だ、堤の川(皮)はポント打つ。それで先斗町という名が出たのだろう。小唄にも(鼓をポント打ちゃ先斗町)とあるよ」

と、乙な異説を持ち出す人もある。

鼓がポンと鳴れば、やがて鴨川踊だ、三階がキャバレエ「鴨川」になっている歌舞練場では三年振りに復活する鴨川踊の稽古がそろそろはじまっていた。

「君の家」の君勇は稽古に出掛けようとして、

「……通い馴れたる細路地を……」

と、昔、はやったが今はもう時代おくれになってしまっている鴨川小唄の一節を、ふと口ずさみながら、屋形の玄関をガラリとあけて出た途端、

「あら――」

と、立ちすくんだ。

路地の奥から出て来た、まだうら若い美貌の学生の姿を見つけたのだ。

帽子の白線は三本、桜の中に三の字のはいった徽章、先斗町の「桔梗家」から吉田の三高へ通っている梶鶴雄といえば、この界隈で誰ひとり知らぬ者はない。――しかし、お茶屋の息子で三高生というのが珍らしいというわけではなかった。

今は「桔梗家」の女将だが、鶴雄の母親はかつて美貌をうたわれた先斗町の名妓で、その血を享けているせいか、鶴雄は女たちにぞっと寒気を覚えさせるほどの美少年だった。そんな意味で知られているのだ。

だから、君勇もすらりとした鶴雄の長身を一眼見るなり、それと判ったが、なぜかふと赧くなった。

そして、一寸頭を下げて、すれ違いかけたが、何思ったのか、急に引き返すと、

「ぼんぼん、どこイお行きやすンえ……?」

そう言いながら、十七の歳より体を濡らしはじめて、二十三の今日まで、沢山の男に触れて来たせいか、むっちりした肉づきに、したたるような色気をたたえた肩を、いきなりどすんと鶴雄の肩に寄せて行って、

「わてもその辺までお伴させとくれやすな」

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