本文へ移動
TORENDIA

画室談義

本文約2,500字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

京都市中京区にある画室を拠点とする著者が、誰の立ち入りも許さない神聖な仕事部屋での制作活動や日常を綴る。樹々に囲まれたその場所は四季折々の自然に恵まれ、自身の絵画制作に必要な道具や参考資料が独自の秩序で配置されている。時に近所の猫たちの憩いの場となるこの場所で、著者は自身の影や鏡を用いたポーズの工夫を凝らし、朝の静寂や制作三昧の日々を通じて浄土のごとき平穏な創作環境を享受している。

上村松園

速度
🎧 画室談義 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

いつだったか、ある東京の婦人雑誌の記者が数人見えて、私のいろいろな生活を写真に撮られたり記事にして行かれたことがあった。

その折り、私の画室の内部も写真に撮りたいということを言われて非常に困りました。何分私の画室というのは、私以外誰ひとりとして、たとえ家族の者や孫たちでもみだりに出入りさせぬことになっている、まあ私個人の専有の仕事部屋であり、私にとってはかけ換えのない神聖な道場とも考えている処でありますからその理由を述べてお断わりしたのですが、再三たっての頼みに敗かされて内部を見せて写真も撮らせましたが、大へん困却した感じを強くしたことは今でも忘れません。

それからもいろいろな処から、あるものは研究心から、あるものは単なる好奇心、興味心から同じような頼みを持ってこられる人が時々ありましたが、出来得る限りお断わりし続けて来ました。これからもそのような依頼には応じたくないと思っている。

大正三年ごろ京都市中京区間町竹屋町上ルの私の今の住居、画室を建ててから思えばもう二十幾年、当時まだ息子の松篁は十三歳であった。

画室は、母屋とは廊下続きの離れの形式になっており、南向きの二階建てで、東、西、南の三方は明り障子とガラス障子の二枚が嵌まっていて、北面だけが壁で仕切られています。畳数は十四あります。

明り障子とガラス障子の二枚戸にしたのは陽光の明暗強弱を適度に調節するためで、それらの三方の外には一尺幅ほどの小さい外廊が廻らしてあり、それにかたちばかりの欄干も取りつけられてあります。そこにはさまざまな植木鉢など並べて置くのに都合がよろしい。

画室の四囲には掘り池を廻らし、金魚だとか鮒、鯉の類の魚を数多く放ってあり、そのもうひとつ外側を樫の木、藤の棚、ゆすら梅、山吹きなどが囲んでいて、その間から母屋の中庭にかけては小禽たちの鳥舎、兎、鶏からさては狐小舎までが散在していて、私や松篁にとっては写生、勉強のよい対象になってくれ、また孫たちにはこよなき遊び相手になってくれています。

上村松園の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本