九龍虫
本文約760字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
疲労を感じさせないという医師から譲り受けた九龍虫という薬虫の飼育記録を綴る。椎の実や人参などを与えると爆発的に繁殖する不思議な虫を自ら服用した体験と、その滋養の効能について記す。さらに、良質な食物を摂取して栄養を蓄える虫の姿を、読書や修行によって知見を深め、高い視座を養う画家や人間の成長のあり方に重ね合わせ、自己を研鑽することの重要性を説く。
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いつだったか歯をわるくしてお医者さんに行ったところ、そのお医者さんは見たところそれほど丈夫そうにもないのに、毎日のおびただしい患者を扱って少しも疲労を感じないと言う。
「何か秘訣でも?」
と訊ねると、
「大いにありますよ」
そう[#「そう」は底本では「さう」]言ってお医者さんは南京虫のようなものがうじゃうじゃうごめいている小さな箱をみせてくれた。
九龍虫という虫で、なかなか精力のつく薬虫だとその医者は説明してくれた。
私は二、三十匹もらって桐の箱に入れて、医者の説明通り椎の実、龍眼肉、栗、人参などを買って来てあたえてみた。
二週間ほどしてから覗いてみたら九龍虫の蛹がいくつも出来ていた。
さらに半月ほどしてからしらべてみると、もう何百匹となくうじゃうじゃしているのには驚いた。
「一遍に十匹ほどずつ飲んでみなさい、とてもよく効く」
と、お医者さんは言ったが、生きた虫をそのまま呑むのはちょっとかなわんと思って放りぱなして置いたが、疲労を覚えてどうにも弱り果てた時に思い切ってのんでみた。
ひりりっと山椒の実を口に入れたような味がした。
べつだん効くようにも感じないが、用いていれば疲れがあまり出ないところから推すと、やはり効いているものらしい。
九龍虫は呑めども呑めどもあとからあとからとネズミ算式に増えてくる。与えた食物の中へわいわい入り込んでそれを食い散らし、食い尽くしては子をふやしてゆく。
この虫が食べているものは、そのまま人間が摂っても効くものばかりである。
人参、椎の実、龍眼肉などというぜいたくなものばかり食っているのであるから効くのは当然である。
人間も良い本をたくさんよみ、修業をつんだ人は、それだけ良い内容を貯えているものである。
画家も心を培い良い絵をたくさんみて研究をはげめば、それだけ高いまなこが持てるのである。
完