キャラコさん
本文約23,700字 ・ 読了時間 約48分
あらすじ(AIが作成しました)
志賀高原の山小屋で、森川梓をはじめとする日本女学園の生徒たちが冬休みを過ごす。世話役として同行したキャラコは、奔放で時に思いつめたような梓を沈着に見守る。ある日、結婚の意思を突如として告げた梓は、その後姿を消してしまう。キャラコは雪山を奔走して池のほとりで梓を見つけ出し、無言のまま傍らに寄り添う。やがて夜が明ける中、紅茶を口にした梓は生きていることの重みを噛みしめ、涙を流す。
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一
雲ひとつない紺碧の空。
波のようにゆるく起伏する大雪原を縁取りした、明るい白樺の疎林や、蒼黝い針葉樹の列が、銀色の雪の上にクッキリと濃紫の影をおとし、岳樺の枝に氷雪がからみついて降誕祭の塔菓子のようにもっさりともりあがり、氷暈に包まれてキラキラと五彩にきらめきわたっている。
「ヤッホー」
「ヤッホーホー」
志賀高原の朝日山のスロープの裾で、花束をふりまいたような美しい四五人のお嬢さんが、すべったりころんだり、キャッキャッと高笑いしたりしながら、思い出したように声をあわせて山の中腹へよびかける。
「は、や、く、来いよウ」
朝日山の北側のスロープの中腹に、赤煉瓦の煙突をもった石造のしゃれた山小屋が建っている。
窓のあけかたや、長押の壁に日時計をつけたところなどをみると、南瑞西のモン・フォールの山小屋をまねてつくったものだということがわかる。
日本信託の森川氏が、娘やその友達のために建てたもので、毎年、一月のはじめごろになると一行が、料理番の婆やと女中をひとりつれてやってくる。日本女学園のやんちゃな連中で、このスロープを自分たちだけで独占して、朝から夕方までたいへんな騒ぎをやらかす。
山小屋の入口から、アストラカン・クロスの上衣に派手なマフラアを巻きつけた森川氏の末娘の梓さんがヒョックリと出てくる。つづいて、黒いウールンのスキー服を着たキャラコさんがスキーをかついで現われてくる。
梓さんは締金具をしめ終ると、麓のほうへ片手をあげて叫ぶ。
「おうい、直滑降だぞォ」
麓にいる連中が、怒鳴ったり、拍手したりする。
「やれイ――」
「やッつけろ――イ」
梓さんは身体をかがめると、銀色に光るスロープにあざやかなシュプールをひきながら、一団の雪煙りになって弾丸のように滑降して行った。キャラコさんは、ちょっと心配そうな顔つきで眺めていたが、梓さんがみごとなフォームで制止したのを見届けると、スラロームを描きながらゆっくりと降りて行った。