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TORENDIA

キャラコさん

本文約14,200字 ・ 読了時間 約29分

あらすじ(AIが作成しました)

一年ぶりに再会したかつての友人、緋娑子さんの変貌ぶりに圧倒されたキャラコさんは、彼女の抱える冷徹な心情や、自身が没頭する演劇の世界について知ることになる。一方、悦二郎氏が留守にする邸内で、キャラコさんはある秘密を探るために彼の手紙を盗み出そうと試みる。しかし、その行為の途中で現れた懸巣との交流に気を逸らされ、帰宅した悦二郎氏と遭遇する。彼女は目的を達成できないまま、自身の行動に葛藤する。

久生十蘭

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一  しばらくね、というかわりに、左手を気取ったようすで頬にあて、微笑しながら、黙って立っている。

玄関で緋娑子さんを見たとき、キャラコさんは、思わず、

「おや!」

と、眼を見はった。

わずか一年ばかり逢わずにいるうちに、すっかり垢抜けがしてまるで別なひとのようだった。

がむしゃらで、野蛮で、喧嘩早くて、頬や襟あしに生毛をモジャモジャさせながら、元気いっぱいに、しょっちゅう体操の教師などとやり合っていた『タフさん』。……これがこのひとだとはどうしても信じられない。

袖の短い、ハイ・ネックのジャージイの服を無造作に着こなし、ハンドバッグのかわりに、れいの、ヒットラー・ユーゲントの連中が持っていた、黒革の無骨な学生鞄を抱え、新劇の女優とでもいったような、たいへん、すっきりしたようすで立っている。

陽ざかりの日向葵の花のような、どこにも翳のない明るい顔だちは、以前とすこしも変わらないが、いったい、どんなお化粧の仕方をするのか、唇などはいかにも自然な色に塗られ、頬はしっとりと落ちついた新鮮な小麦色をしている。頬に手をあてるだけの、そんな、ちょっとしたしぐさの中にも、相手の眼を見はらせずにはおかないような洗練された『表情』があった。

キャラコさんは、呆気にとられてぼんやりながめていたが、急に気がついて、真っ赤になってしまう。

「ごめんなさい、タフさん。いつまでもそんなところへ立たせっぱなしで……。どうぞ、あがってちょうだい」

へどもどしながら、じぶんの部屋へ案内して、窓ぎわの椅子にかけさせると、しばらくね、とか、ほんとうによく来てくれたわね、などと思いつくかぎりのお愛想を並べたてる。

話の継穂を探そうと夢中になりながら、

「それにしても、もう、どれくらいになるかしら。……犬も馬も、みな、あなたに逢いたがっているわ」

犬も馬も……。家じゅうのものがみな、というつもりだったのだ。

キャラコさんは、あわててやり直す。

「……ええと、家じゅうが、みなあなたに逢いたがっていますわ。……その後、悦二郎氏は、どうして?」

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