ノンシャラン道中記
本文約13,300字 ・ 読了時間 約27分
あらすじ(AIが作成しました)
マルセーユの港に降り立ったコン吉とタヌは、ひょんなことから乾物屋の法螺に騙され象の卵を購入する。その後、二人は痩せ細った牛を連れ、マルセーユ代表の猛牛ヘルキュレスに勝つため闘牛学校で牛を鍛え上げる。革命記念日の闘牛場で、コン吉の眼鏡をかけたナポレオンと名付けられた牛は、工夫を凝らした作戦で見事に強敵のヘルキュレスを打ち負かし、コルシカの勝利を飾る。
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一、ココナットから象が出る馬耳塞の朝景色。マルセーユの旧港。――この四角な、鱒の孵化場のようなもののなかには、あらゆる船舶の見本と、あらゆる国籍が詰め込まれている。二本檣のゴエレット船、地中海の三角帆船、マルタ島のトロール船、バクウの石油船。そうかと思うと古風な三檣砲艦なんてのもいる。だから、独逸の潜水艦だってそのへんの水の中にくぐっていないわけのものではない。国籍の方はあげて数えるのも愚かである。サルヴァドル国コスタ・リカ共和国、……諸君は聖シェージュ王国というのを聞いたことがありますか。ところが、白と黄の奇妙な旗をかかげたその国の船が、ちゃんと波止場のそばに停泊しているのだ。ところが、その波止場には、税関吏、運送屋、宿引き、烏貝売り、憲兵、人足、小豆拾い、火夫、人さらい、トーマス・クックの通弁、……そういった輩が、材木、小麦、椰子の実、古錨、オーストラリヤの緬羊、瀝青、鯨油の大樽と、雑多に積みあげられた商品や古物の間を、裾から火のついたように走り廻っている。可動橋の歯車の音、船の汽笛、怒声に罵声、機重機の呻き声、蒸気の噴出する音、それに護母寺の鐘の音まで入り交じり、溶け合って、轟然混然たる港の朝の音楽を奏している。
キャヌビエールの船着場から、烏街の方へ入った一軒の乾物屋の店先に、楕円形の黒いすべすべしたものが山のように積まれてあった。これはちょうど、いま南洋から到着したばかりのココアの実なんだ。
するとここへ、牛を連れた三人の男女が通り合わした。一人は粗毛の帽子をかぶり、赤、黄で刺繍をした上衣を着、珈琲色の薄い唇の上に見事な口髯をたくわえた、――つまり、疑いもなくコルシカの山地の人間だということは、その腰にぶっそうな匕首を帯びているのでもわかる。