TRENDIA CLASSIC
実川延若讃
折口信夫
1 / 28
「女殺油ノ地獄」の芝居を、見て戻つた私である。一日、極度に照明を仄かにした小屋の中にゐて、目も心も、疲れきつてしまつた。思ひの外に、役者たちの努力が、何となく感謝してもよい心持ちを、持たしてくれたけれども、何分にも、先入主となつたものが、度を超えて優秀な技芸であつた為、以前見たその美しい幻影が、今見る役者たちの技術の上に、圧しかゝるやうな気がして、見てゐてひたすら、はかなくばかり見えてならなかつたのである。
明治大正の若い時代は、貴かつた。その劇も、音楽も、浄い夢のやうに虚空に消えて行つた。はじめて、この河内屋与兵衛を見たのは、今の実川延若の延二郎と言つた頃である。さるにても、この若い油売りの手にかゝるお吉のいとほしさ。中村成太郎――後魁車の、姿なら技術なら、今も冴えざえと目に残つて居る。二度目に見た時は、中村福之助がお吉を勤めてゐたが、此時既に、先の印象が、その後のお吉の感興を淡くしたことであつた。其ほど、魁車のお吉は優れてゐた。与兵衛の両親、同業油屋の徳兵衛・おさはに扮したのが、尾上卯三郎・嵐璃であつた。この三人の深い憂ひに閉され、互に何人かに謝罪するやうに、額をあつめた謙虚な姿、まことに、こんなに人を寂しく清くする芝居もあるものか、としみ/″\感に堪へたことであつた。
折口信夫の他の作品
TRENDIA CLASSIC
延若礼讃
折口信夫
延若礼讃
折口信夫 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
義太夫と三味線
折口信夫
義太夫と三味線
折口信夫 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
御国座へ
折口信夫
御国座へ
折口信夫 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
漂著石神論計画
折口信夫
漂著石神論計画
折口信夫 ・ 約7分
TRENDIA CLASSIC
愛護若
折口信夫
愛護若
折口信夫
TRENDIA CLASSIC
新しい国語教育
の方角
折口信夫
新しい国語教育の方角
折口信夫
TRENDIA CLASSIC
石の信仰とさえ
の神と
折口信夫
石の信仰とさえの神と
折口信夫
TRENDIA CLASSIC
稲むらの蔭にて
折口信夫
稲むらの蔭にて
折口信夫
TRENDIA CLASSIC
市村羽左衛門論
折口信夫
市村羽左衛門論
折口信夫
TRENDIA CLASSIC
『絵はがき』評
折口信夫
『絵はがき』評
折口信夫
TRENDIA CLASSIC
歌の円寂する時
折口信夫
歌の円寂する時
折口信夫
TRENDIA CLASSIC
江戸歌舞妓の外
輪に沿うて
折口信夫
江戸歌舞妓の外輪に沿うて
折口信夫