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TORENDIA

風景

本文約3,400字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

波止場の喧騒から離れた静かな場所へ迷い込んだ「僕」は、古びた建物と海、そして空に浮かぶ雲が織りなす異常なまでに緊張した風景に魅了される。敷地内で煙草に火をつけようと試みるが、突然建物から現れた男に怒鳴られ追い出されてしまう。立ち去りながら、この場所が税関であることを知った僕は、男の面影からある画家を連想する。風景の緊張感は画家がそれを描いていたからではないかと空想し、僕はその結論に快活な気分を抱いて立ち去る。

堀辰雄

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🎧 風景 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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波止場の附近はいつものやうに、ぷんぷん酒臭い水夫や、忙しさうに陸揚してゐる人夫どもで一ぱいだつた。僕はさういふさなかを窮窟さうに歩くといふよりも、むしろ人氣のなささうなところを、ところを、と拾ひながら歩いてゐた。すると突然、僕は或るへんてこな一區域に迷ひ込んでしまつたのである。

しかし僕がそこをへんてこなところだなと思つたのは、次の瞬間、人が始めて風景といふものを見たやうな驚きに一變してゐた。

そこは實に靜かな場所だつたのである。どうも僕にはその位置の見當がはつきりつかないのだが、波止場をまごまごしてゐるうちに、いきなり迷ひ込んでしまつたのだから、むろん波止場の一部なのには違ひない。ただ僕に解つてゐることは、非常に低くなつて聞えてくる波止場のざわめきが、かへつてこの場所の靜かさを決定的にしてゐる位に、そこから離れてゐることだけだ。

その周りには、高い塀に取り圍まれた古ぼけた建物が、ただ一つきりしかなかつた。それはしかし僕の視野をきはめて狹くしてゐたのである。波止場はすつかりその蔭になつてしまつてゐて、そこから見えるのは殆んど海ばかりだつた。それがここを波止場の尖端のやうにも思はせるのである。そして僕の立つてゐるのはその建物の中庭らしい。中庭といつても、ここには一本の樹さへなく、ただ禿げた土の上にちよぼちよぼと雜草が生えてゐるばかりである。そして何の堤防らしいものもなしに、いきなり海に面してゐた。

そのやうに狹められた僕の視野のなかの海の上には、ただ一艘、前世紀の遺物のやうな古ぼけた汽船が浮んでゐるばかりだつた。その古ぼけた汽船はなんだか玩具めいて見えるのにも拘はらず、ふしぎに膨大で、この風景の額縁からはみ出てゐるやうな不調和な感じさへするのだ。それは光線の加減で水の上にばかに大きく映つてゐる船全體の影のせゐもあるらしかつた。

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