TORENDIA
エマオの旅びと
堀辰雄
TORENDIA
エマオの旅びと
本文約530字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
エマオの旅びとたちがクリストと知らずに旅路を共にした逸話を引く。芥川龍之介の絶筆に見られる言葉を辿り、著者は彼が他者を理解しつつも自身を理解できていなかったという逆説的な人間像を考察する。近代の迷妄を問い直し、個人の理解という主題を軸に芥川の思索と自己の心境を綴る。
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「我々はエマオの旅びとたちのやうに我々の心を燃え上らせるクリストを求めずにはゐられないのであらう。」これは芥川さんの絶筆「續西方の人」の最後の言葉である。「我らと共に留れ、時夕に及びて日も早や暮れんとす。」さうクリストとは知らずにクリストに呼びかけたエマオの旅びとたちの言葉はいまもなほ私たちの心をふしぎに動かす。私たちもいつか生涯の夕べに、自分の道づれの一人が自分の切に求めてゐたものとはつい知らずに過ごしてゐるやうなことがあらう。彼が去つてから、はじめてそれに氣がつき、それまで何氣なく聞いてゐた彼の一言一言が私たちの心を燃え上らせる。
いま、「西方の人」の言葉の一つ一つが私の心に迫るのも丁度それに似てゐる。例へば「クリストの一生の最大の矛盾は彼の我々人間を理解してゐたにも關らず彼自身を理解出來なかつたことである。」――これまで私たちは芥川さんくらゐ自分自身を理解し、あらゆる他の人間の心を通して自分自身をしか語らなかつたものはないやうに考へがちであつた。しかし、いまの私にはそれと反對のことしか考へられない。芥川さんもやはり自分を除いた我々人間を理解してゐたばかりである。我々に自分自身が分かるやうな氣のしてゐたのは近代の迷妄の一つに過ぎない。
完
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