水のほとり
本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
胸の病を抱える語り手は、夕暮れ時になると家を出て、隅田川にかかる橋の上で大川の流れる様を眺める。橋の上で蒸気船の音を聞くと、現在の風景の上に過去の記憶や幻影が幾重にも重なり、心身の状態と交錯する。冬の夕刻の橋の上で、時折口ずさむアポリネエルの詩句とともに、病の予兆を抱えながらも移ろいゆく川面を見つめる静かな時間を綴る。
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私はいま、こんな胸の病氣で、部屋の中に閉ぢ籠つたきり、殆ど外出することなんかないと言つていい位であるが、――いまから數週間前、まだ私の病氣もこんなに重くならなかつた頃のことだ、晝間のうちはそれでも我慢して寢床の中にもぐり込んでゐたが、夕方になるとなんだか耐らない氣持になつて、私は無理に起き上り、出來るだけ氣輕な散歩者のやうな服裝をして、何のあてもなしに街の中へ出かけて行く習慣があつたものだ。そして私は家を出ると、すぐ前の、今年になつて漸く出來上つた隅田公園のなかを通り拔けながら、或時は枕橋を渡つて、河岸に沿うたままビイル會社の横を拔けて吾妻橋の方へ出たり、また或時はそれと反對の方向に、新築中の牛島神社の裏を拔けて、言問橋の方へ出たりするのであつた。そして吾妻橋にせよ、或は言問橋にせよ、私はそれを渡りながら、ふとその中ほどに立止つて、それらの橋の下を、鈍く、くろぐろと流れてゐる大川に見入るやうなことがあつた。あたかも自分自身の心の状態を試して見るかのやうに。……そしてその時、もし私にアポリネエルのセエヌ河を歌つてゐる詩などがひよつくり思ひ浮ばうものなら、私はそれによつて自分の心の何となく晴れやかであるのを知ることが出來た……
L'amour s'en va comme cette eau courante
L'amour s'en va
Comme la vie est lente
Et comme l'Esprance est violente
Vienne la nuit sonne l'heure
Les jours s'en vont je demeure