夢
本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
夜の明けた狭い部屋で、椅子に腰かけ微笑む少女と、硬い表情で座る青年の二人がいる。少女は青年に対し、眼が戻らなければ目を覚ますことはできないと告げる。語り手は、星が人間の眼であるというロシアの説を回想し、名前という概念が人間にもたらす意義について少女に語る。夢幻的な空間の中、名前への関心を示す語り手と、窓辺で小鳥を呼ぶ少女との対話を通じて、人間の存在や認識の在り方を綴る。
💰 この本を応援する(投げ銭)
第七夜
私は少女を搜した。いましがた夜の明けたばかりの、狹い、長方形の部屋の中に、私は少女を見出した。彼女は一つの椅子に腰かけ、僅かにそれと分かるくらゐに微笑してゐた。その傍には、一寸離れて、もう一つの椅子があり、それには一人の青年が腰かけてゐたが、背を靠せた樣子がいかにも硬苦しい。さうしたまま、二人はその夜を過したらしく見える。
少女は身動ぎをして、私に手を差し延べた、私の手と出遇ふのに程よい高さにそれを持ち上げたのである。その手は熱くて、妙にざらざらしてゐた。なんだか野外生活をしてゐて、入用なものは自分自身で用を足すやうにしてゐる、小さな動物でも握つてゐるやうな氣がした。
それから今度は彼の番で、青年が身動ぎしはじめた。彼は目を覺まさうと明らかに努力してゐた。彼の顏はもどかしさと不滿の表情で收斂した。少女は彼の方を輕くふり向いて、彼を見つめた。青年の顏面は自身の努力によつて赤らんでゐた。それは中央に向つて收斂し、そしてときどき眼瞼を顫はせながら、もち上つた。しかし、その下にあるべき眼は、空虚のやうに見えた。
「そんなことをなさつたつて何んにもならないわ。」少女は、笑ひが散つてそこら中に閃いてゐるやうな、透明な聲を出して言ふのだつた。「お眼が歸つて來ないうちは目を覺ますことは出來ないのよ。」