TRENDIA CLASSIC

悪魔の聖壇

平林初之輔

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法律の前には罪を犯さなくても、神の前に罪を犯さぬ者はありません。貴方がこれまでに犯したいちばん重い罪を神様の前に懺悔しなさい。懺悔によりて罪は亡びるのです。貴方は救われるのです。

「牧師様、いちばん重い罪でなくてはいけないものでしょうか? 二番目に重い罪では?」

「いちばん重い罪でなくては神を偽ることになります。今日から新生涯にはいろうとなさる貴方が、新生涯にはいる第一歩に神を偽るなんて途方もないことです」

「神様はほんとうにどんな罪でも懺悔をすれば許して下さるでしょうか?」

「神を疑うことは、神をためすことになります。貴方は神を信じなくてはなりません。どんな罪でも、たとい人殺しの罪でも心から懺悔すれば神様はゆるして下さいます」

「それでは申し上げましょう」

青年は十字をきって語りだした。

「私は一人の見知らぬ男からひどい侮辱を受けました。主イエスは人もし汝の右の頬を打たば左の頬も打たせよと仰言ったが、私はその男に対してちょうどその反対をしようと決心したのであります。眼には眼をもってむくい歯には歯をもってむくいようとしたのであります。いやそれ以上かもしれません。私はその頃まだ若かったから、その時に受けた心のいたでから回復する力をもっていましたが、相手はいま五十に近いのです。私の与えようとする打撃は、その男にとっては致命的なものであるに相違ないのです」

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