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TORENDIA

卑怯な毒殺

本文約5,100字 ・ 読了時間 約11分

小酒井不木

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🎧 卑怯な毒殺 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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病室の一隅には、白いベッドの掛蒲団の中から、柳の根のように乱れた毛の、蒼い男の顔が、のぞいていた。その顔の下半分には、口だけが孔となって、厚い繃帯がかけられてあった。

ベッドの脇には干物のように痩せた男が立っていた。彼は兀鷹のように眼をぎょろつかせて、病人の不思議な感じのする顔をじっと睨んでいた。床頭台上に点ぜられた台附電灯の光が、緑色のシェードを通じて、ゼリーのように、変に淀んだ空気を漂わせた。病院の秋の夜は、静かに更けて行った。

「ふッふ」と、立っている男は吐き出すように笑った。「中からドアに鍵をかけた以上、誰にも邪魔されずに、ゆっくり僕の計画を遂行することが出来るんだ。君はもはや鷹につかまった雀と同じだ。僕は君が苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いて死んで行くところを静にながめたいのだ。思えば、この時機をどんなに待ち焦れたことか。復讐というものは、辛抱の足らぬ人間には到底堪え難い重荷だが、僕は蛇のように執念深く辛抱したよ。そうして、とうとう、今のこの無限の喜びに接し得られたよ」

こういって男はきびしくにやりとした。それは悪魔の笑いであった。

「君は僕を毒殺しようとした」彼は幾分か声をふるわせて続けた。「ところが幸か不幸か僕はその毒をのまなかった。のむ前に発見したのだ。そうして僕はこのとおり助かった。けれども僕は、警察へは届けなかったよ。警察へ届けたのでは、復讐の快感を十分味わうことが出来ぬからねえ。つまり、僕は、僕自身の手で君に復讐しようと思ったのだ。

そこで先ず僕は、内密に君が僕に与えようとした毒を分析してもらったよ。その結果、それがストリヒニンであると知れた。ストリヒニン! 猛毒だ。君は僕を、蛙が水泳ぎをするように手足をつんのめらせて、苦しみ悶えさせて殺そうとしたのだ。

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