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TORENDIA

好色破邪顕正

本文約21,600字 ・ 読了時間 約44分

あらすじ(AIが作成しました)

探偵志願の戸針康雄は、購入した古本『好色破邪顕正』の包み紙が殺人現場に落ちていたことから警察の訪問を受ける。現場で謎の女の影を感じていた康雄は、刑事の調べに協力する過程で、古本屋の主人が娘を亡くした事実と、事件を巡る悲劇的な背景に直面する。本作は、ある殺人事件を軸に、現場に残された証拠品が繋ぐ複雑な人間模様と、事件に関わった人々の真相を描く。

小酒井不木

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探偵志願

戸針康雄は、訪問者が丑村という刑事であることを知るなり、ぎくりとして、思わずも手にして居た新聞紙を取り落した。不吉な予感が、彼の手を麻痺せしめたからである。

刑事は、す早く身を屈めて、康雄の落した新聞紙を拾い上げ、

「おお、やっぱり、ゆうべの殺人事件の記事を御読みでしたか。実は、私が御たずねしたのも、この事件に就てで御座います」

康雄は更にはッとして顔色を変えた。が、つとめて平静を装って、

「と仰しゃると?」

と、無理に怪訝そうな眼つきをした。

その眼付を刑事はじっと見つめて、

「新聞に書いてありますとおり、殺されたのは、メトロ生命保険会社社員大平八蔵氏ですが、その宅は、富倉町三十二番地です」

「それがどうしたというのですか」と、康雄はいらいらしながら、憤慨の語調をまじえて言った。

刑事は、あたりを見まわし、声をひくめて、

「こうした話はなるべく他人に聞かれたくありませんから、若し御差支なくば……」

「こちらへ御はいり下さい」

と、康雄は刑事を請じ入れ、やがて二人は応接室で対坐した。夕暮に近づいたせいか、室内は薄暗くなりかけたが、康雄は面はゆい気がしたので、電灯をつけようとしなかった。刑事はやさしい口調でたずねはじめた。

「昨晩あなたは、殺人事件のあった富倉町を御通りにはなりませんでしたか」

康雄は、ぐさと、短刀で胸をさされる思いをした。

「私は富倉町が何処だか知りません」

取り敢えずこう答えて、丑村刑事はどうしてそのことを知ったであろうかと考えると、康雄ははたと思いあたることがあった。刑事は言葉を続けた。

「あなたは昨晩珍しい古本を御買いになりましたでしょう」

果して、と康雄は思った。

「好色破邪顕正という書籍、その新聞紙の包みが、ちょうど、殺人事件のあった大平氏宅の前に落ちて居たのです。今朝拾得の届出があったものですから、すぐさま手分けして市内の古本屋を調べさせると、袋町の古泉堂で、昨夜あなたが御求めになったのだとわかりました」

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