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TORENDIA

現場の写真

本文約7,700字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

東京の浅草で発生した株式仲買人殺害事件は、有力な手がかりがなく迷宮入りしかけていた。塚原俊夫は、現場に残された写真から犯人が被害者の後ろから抱きつくように襲ったと推測し、その姿勢と傷口の不自然さから犯人が左利きであると推理する。警察が容疑者としてマークしていた手代とは別に、俊夫は近隣を通る按摩師に目をつけ、その利き手を確認することで犯人を追い詰めていく。

小酒井不木

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一

その年の春はいつまでも寒さが続いたので、塚原俊夫君は、私に向かって、また大地震でも起こらねばよいがなどと、時々私を気味悪がらせておりました。けれども、幸いに、大きな天災地変もなく、五月に入ってからは急に暖かくなって、実験室の前の躑躅が一時に咲き揃いました。

「兄さん、気候が寒いと、あまり大きな犯罪も起こらないようだねえ」

と、ある日の午後、俊夫君は、紫外線装置の部屋から、退屈そうな顔をして出てきながら言いました。

「犯罪など起こらない方がいいねえ。俊夫君には物足らぬかもしれないけれど、世間はたしかに迷惑するよ。しかし、ここ一週間ばかり急に暖かくなったから、また、犯罪がふえるかもしれないねえ。ことに浅草Y町の株屋殺しのように、事件が迷宮に入ると、それを模倣して人殺しが続出しないともかぎらない」

「ああ、そうそう」

と、俊夫君は、急に熱心な顔をして言いました。

「あの株屋殺しは、もう二週間になるが、まだ犯人が見つからぬようだねえ。いったい、警察は何をしているんだろうか。殺された人間がありゃ、殺した人間のあることは当たり前じゃないか」

「そりゃ君、無理だよ。人間は神様でないから。しかし、君は、あの事件について何か説をたてているのか」

「いや、僕は近頃、新聞記事というものが、日を経るに従っていよいよ出鱈目になってゆくことを知ったので、自分に依頼されない事件には、立ち入った研究をしないことにしているよ」

ちょうどその時、訪問の客があったので、私が扉を開けにゆきますと、それは他ならぬ「Pのおじさん」すなわち警視庁の小田刑事でありました。

「Pのおじさん、久しぶりですねえ」

と、俊夫君は、うれしそうな顔をして、小田さんのそばに駆けよりました。

「きっと、いいお土産を持ってきてくださったでしょう。僕、この頃うち、腕が鳴って仕方がなかった」

「いいお土産とも、実に大きなお土産だ」

と言いながら、小田さんはテーブルの前の椅子に腰を下ろしました。

「ああ、うれしい」

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