TRENDIA CLASSIC

私の要求する探偵小説

平林初之輔

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私も以前にはだいぶ探偵小説を耽読したことがあった。四五年前までは新本でも丸善で二十五銭で買えた菊版の六片版を十銭位で古本屋からあさってあるいたこともあった。黒岩涙香の二三十冊もある翻案物を、神楽坂の貸本屋から次々にかりてきて一ヶ月かそこいらで大部分読んでしまったこともあったが、近頃は仕事が忙しいので余り探偵小説を読んでいるひまがない。それでも病気などになって堅い本を読めなくなると必ず探偵小説を手にする。『新青年』や博文館や金剛社あたりで出しているシリーズはたいてい読んでいる。ことに小酒井博士の書いたものなどは手にはいった範囲では読みおとしたことがないほど愛読している。

けれどもただ手あたり次第に、面白いから、読むだけの話で探偵小説について何か書けなんて言われると何も書くことはない。ただ好きで読んでいるという以外にべつだん感想もない。強いていえば、日本の普通の小説は、むずかしくてよくわからないから、そして私の頭のように疲れてしまった頭を刺激する力がないから、刺激を与えてくれる読み物としてまず第一に探偵小説を選んでいるだけのことである。

探偵小説の中にも、他の場合と同様に、つまらないのもあれば、傑作もある。そこで私は、これまでに読んだもののぼんやりした印象から、私一個のすきごのみに従って、どういう作品が好きかという探偵小説に対する注文をしてみることにする。もちろんこれは私一個の私見であって、探偵小説はすべてこうでなければならぬなどというのではない。ただ私だけが、こういう条件をそなえている作品が探偵小説の上乗のものだと考えるその条件をならべてみるまでである。

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