TRENDIA CLASSIC
秘密
平林初之輔
1 / 20
一
私がこれから書き記してゆくような出来事は、この世の中では、決して二度と起こりもしまいし、たとえ起こったところで、当事者が私のような破廉恥漢でなければ、それを公に発表しようなどという気は起こさぬだろうと思う。第一そんな気を起こす前に、大抵の人なら、小刀を頸動脈へつきさして、時間的に、そういう考えの起こる余裕を無くしているだろう。とは言え、私自身でも、これを書きながら、さすがに、自分を世界一の醜悪な卑怯な人間だということははっきり意識しているのだから、私がそれを意識していないかと思って、読者から色々愚にもつかぬ批評を私の行為に加えて貰うことは真っ平ごめん蒙りたい。それに、私の生命は、近代の薬物学に間違いがないとすれば、今後数時間しかつづかないはずで、これを書きおえてからほんの一時間か二時間の余命しかのこさぬだろうから、たとい何を言っても私の耳にはいる気遣いはないのだ。私が自殺するに至った理由は、これを最後まで読んで貰えばわかるが、もう一つの理由は、人間のうるさい声、特に私の私事に関するわかりきった愚劣な批評をきく前に諸君と幽冥境を異にしていたいからでもあるのだ。
* * *
今朝からこの物語をはじめることにしよう。もっと前から説明せんと読者にわからないかも知れんが、それは、その場合々々に補ってゆくことにする。今の場合、限られた時間内に、秩序だてて四年も前のことから書き出してゆく落ちつきは私にはないからだ。
平林初之輔の他の作品
TRENDIA CLASSIC
「華やかな罪過
」作者として
平林初之輔
「華やかな罪過」作者として
平林初之輔 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
愛読作家につい
ての断片
平林初之輔
愛読作家についての断片
平林初之輔
TRENDIA CLASSIC
悪魔の聖壇
平林初之輔
悪魔の聖壇
平林初之輔
TRENDIA CLASSIC
頭と足
平林初之輔
頭と足
平林初之輔
TRENDIA CLASSIC
或る探訪記者の
話
平林初之輔
或る探訪記者の話
平林初之輔
TRENDIA CLASSIC
伊豆の国にて
平林初之輔
伊豆の国にて
平林初之輔
TRENDIA CLASSIC
アパートの殺人
平林初之輔
アパートの殺人
平林初之輔
TRENDIA CLASSIC
ヴアン・ダイン
の作風
平林初之輔
ヴアン・ダインの作風
平林初之輔
TRENDIA CLASSIC
「陰獣」その他
平林初之輔
「陰獣」その他
平林初之輔
TRENDIA CLASSIC
ウイツテ伯回想
記その他
平林初之輔
ウイツテ伯回想記その他
平林初之輔
TRENDIA CLASSIC
江戸川乱歩
平林初之輔
江戸川乱歩
平林初之輔
TRENDIA CLASSIC
オパール色の手
紙
平林初之輔
オパール色の手紙
平林初之輔