TRENDIA CLASSIC
探偵小説の世界
的流行
平林初之輔
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名前は忘れたが、どこかの国の総理大臣で、毎日一時間ずつ探偵小説を読むことを習慣にしていた人があるそうだ。アメリカの前大統頷ローズベルトは、探偵小説の愛読者であることを公然と告白したことがある。
日本でも貴族院議員に『新青年』の愛読者があったり、思いもよらない学者、政治家や、教育家の間にすらも探偵小説の愛読者は無数にある。
一般に探偵小説の愛読者は、他の軟文学の読者よりも遥かに広い範囲にわたっており、しかもその中にはより多くの教養ある階級の人々を包含している。男女の学生の愛読書のリストの中にも、最近著しく探偵小説が増加してきたことは事実である。
欧米の読書界ではこの傾向は世界大戦後急に顕著になってきたということであり、アメリカのある文学入門書にも、探偵小説は凡庸な作者には書けないが、今後、最も見込みのある小説は探偵小説であろうと書かれている。
この理由は色々あるであろうが、探偵小説が現代人の生活の要求に答える何物かをもっているからであることはいうまでもない。
◆
第一に探偵小説は強烈な刺激を読者に与える。現代人の生活のテンポは世界大戦前の人の生活と較べると非常に速くなった。エレベーター、タクシー、無線、飛行機、その他これに類似する機械文明を構成するエレメントは、現代人の生活の中へ、しっかりと織り込まれてしまった。筋の進行の緩慢な従来のロマンスや、わかりきったモラルを説く教訓小説や、特に汽車も電話もなかったころの事件に題材をとった歴史小説は、もはや現代人の生活から分離してしまい、それらのものは現代人に刺激を与えるに足りなくなった。探偵小説はこの点において、現代人の嗜好に最もよく投じている。
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