これからする話を小説に書いてくれないかね、と玉本寿太郎がいった。
玉本は開戦初期の比島戦でトムプソン銃にやられて左脚を四分の三ほど短くされたが、終戦後は、じぶんからなんとか局の通訳を買って出て、毎日いそがしそうにしている。
「まあ、やめておく」と私がいうと彼は、「みょうなやつだな、終いまで聞きもしないで。君はいつか『日本人としても立派な日本人は、アメリカ人になっても立派なアメリカ人になるだろう』といったことがあるな。その実例を話そうというのだ。事実だぞ面白い話だぜ」
といいながら、私の顔にウイスキーくさい息をふっかけた。それが本場物らしいすっきりとしたいい匂いだったので私はいっそう気を悪くした。
「ひとりで本物のウイスキーを飲んで、ひとに匂いだけ嗅がせるやつも相当気むずかしいやつだ」
玉本は、やあと頭を掻いた。
「ああ、そうか。前渡でもおれのほうはかまわない」
義足をひきずりながら奥から一逸を持ちだしてきて、それを煖炉棚のよく見えるところへ置いた。
以下、玉本の話をするままに書く。
一
第二世の日系米人には、袖に縋っても日本のほうへひきとめておきたいようなのがある。モオリー下戸米秀吉もその一人だった。このモオリー下戸米がつまりこの話の主人公なのである。
おれがはじめてモオリーに逢ったのは、アラスカのクエンスローにあるベーリング会社の罐詰工場へ契約の鮭殺しを運んで行くドーソン号の最下船だった。おれが見ると、薄暗い五味桶のような三等室の蚕棚の中段に、端然と身を横たえている一人の日本人があった。品のいい背広をきちんと着て、巻煙草を指にはさんだまま蒼い顔をして眼をつぶっている。それもいいが、それが絶対なる She-boy なんだから人目をひいた。シーボーイってなんのことだね。
優男というと当らない、男おんなもチトへんかな、つまり女にもみまほしき男子なのである。そうはいっても顔がきれいだとかなんとかいうのではない。身体のつくりがいかにもなよなよとしていて、手の恰好などはけしからんような気がするほど美しい。見事なのである。ちょうどワットオの絵のようなんだ。