TRENDIA CLASSIC

其中日記

種田山頭火

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其中一人として炎天     山頭火

七月十一日

天気明朗、心気も明朗である。

釣瓶縄をすげかへる、私自身が綯うた棕梠縄である、これで当分楽だ、それにしても水は尊い、井戸や清水に注連を張る人々の心を知れ。

百合を活ける、さんらんとしてかゞやいてゐる、野の百合のよそほひを見よ。

椹野川にそうて散歩した、月見草の花ざかりである、途上数句拾うた。

昼食のおかずは焼茄子、おいしかつた。

此頃は茄子、胡瓜、胡瓜、茄子と食べつゞけてゐる。

・けさは逢へる日の障子あけはなつ(追加一句)

青田いちめんの長い汽車が通る

・炎天かくすところなく水のながれくる

・涼しい風が、腰かける石がある

・すずしうて蟹の子

・ふるさとちかく住みついて雲の峰

水をわたる高圧線の長い影

・日ざかりのお地蔵さまの顔がにこにこ

野菜に水をやる、栄養の水でもあれば感謝の水でもある。

△其中庵はまことに雑草の楽園であり、虫の宿である、草は伸びたいだけ伸び、虫は気まゝに飛びあるく。……

蜩! ゆふべの窓からはじめて裏山の蜩を聞いた。

とても蚊が多いから、といふよりも、私一人に藪蚊があつまつてきて無警告で螫すから、まだ暮れないのに蚊帳を吊つて、その中で読書、我儘すぎるかな。

△或る日はしづかでうれしく、或る日はさみしくてかなしい、生きてゐてよかつたと思ふこともあれば、死んだつてかまはないと考へることもある、君よ、孤独の人生散歩者を笑ふなかれ。

・昼寝の顔をのぞいては蜂が通りぬける

もつれあひつつ胡瓜に胡瓜がふとつてくる

・炎天のの虫つるんだまんま殺された

・もいでたべても茄子がトマトがなんぼでも

心中が見つかつたといふ山の蜩よ

今から畑へなか/\暮れない山のかな/\

追加一句

・飯のしろさも家いつぱいの日かげ

七月十二日

月明に起きて蛙鳴を聴く、やがて蝉声も聴いた。

玉葱といつしよに指を切つた、くれなゐあざやかな血があふれた、肉体の疵には強い私だが、疵の痛みには弱い私だ。

生死一如、物心一枚の境地――それは眼前脚下にある、――それが解脱だ。

五時半出立、九時から十二時まで秋穂行乞、三時半帰庵。

米 二升二合         酒   弐十銭

今日の所得          今日の買物

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