TRENDIA CLASSIC

其中日記

種田山頭火

1 / 44

旅日記

□東行記(友と遊ぶ)

□水を味ふ(道中記)

□病床雑記(飯田入院)

□帰庵独臥(雑感)

三月廿一日 (東行記)

春季皇霊祭、お彼岸の中日、風ふく日。

樹明君から酒を寄越す、T子さんが下物を持つてくる、やがて樹明君もやつてくる。……

出立の因縁が熟し時節が到来した、私は出立しなければならない、いや、出立せずにはゐられなくなつたのだ。

酔歩まんさんとして出かける、岐陽君を訪ねる、酒、さらに呂竹さんを訪ねる、そしてFをSを訪ねて酒。

とう/\出立の時間が経過してしまつたので、庵に戻つて、さらに一夜の名残を惜しんだ。

三月廿二日 徳山から室積へ。

晴、朝早く駅へかけつけて出立。

物みなよかれ、人みな幸なれ。

八時から一時まで白船居、おちついてしんみりと別盃を酌んだ、身心にしみ入る酒だつた。

駅の芽柳を印象ふかく味はつた。

白船君の歯がほろりと抜けた、私の歯はすでに抜けてしまつてゐる。

汽車からバスで室積へ、五時から十時まで、大前さん水田さんと飲みながら話す。

十二時の汽船(商船愛媛丸)で宇品へ、春雨の海上の別離だ。

船中雑然、日本人鮮人、男女、老人子供、酒、菓子、果実、――私は寝るより外なかつた。

庵はこのまゝ萠えだした草にまかさう

そして私は出て行く、山を観るために、水を味ふために、自己の真実を俳句として打出するために。

・ふりかへる椿が赤い

其中庵よ、其中庵よ。

わかれて春の夜の長い橋で

木の実すつかり小鳥に食べられて木の芽

・こんやはこゝで涸れてゐる水

三月廿三日

おくれて九時ちかくなつて宇品着、会社に黙壺君を訪ねる、不在、さらに局に澄太君を訪ね、澄太居に落ちつく、夫妻の温情を今更のやうに感じる。

樹明、白船、せい二、清恵、澄太、等、等、等、春風いつもしゆう/\だ、ぬくい/\うれしい/\だ。

夜は親しい集り、黙壺、後藤、池田、蓮田の諸君。

近来にない気持のよい酒だつた、ぐつすりと眠れた。

三月廿四日

おこされるまで睡つてゐた、夢は旅のそれだつた。

春雨、もう旅愁を覚える、どこへいつてもさびしいおもひは消えない。……

種田山頭火の他の作品