コレラ
本文約1,000字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
コレラが流行する中、胃腸の弱い男は他人の出入りに過敏になり、注意書きを張り出す。しかしその貼り紙が誤解を招き、巡査と医者によって強引に避病院へ連行される。身に覚えのない隔離生活に抗議する男は、菌だらけに思える部屋で不安な夜を過ごす。やがて隣室から聞こえる喘ぎ声と母親の罵倒、そして急な静寂に包まれる病院内で、男は傍らにいる妻を見つめながら、自身の状況と向き合うことになる。
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コレラが流行り出した。コレラはもう四五町先までやって来た。胃腸の弱い彼はすっかり神経を鋭らせた。買はないと云ふのに魚屋は毎日勝手口からやって来て、お宅の井戸は、と賞めながら勝手に水を飲む。用事もない奴等が出入りする度に彼は冷々した。到頭、我慢がならないので、
コレラ流行につき無用の者出入りすべからず と一筆貼り出した。
すると翌朝、巡査と医者がやって来た。「御宅に病人があるさうですが……」と二人は彼がまだ寝てゐるところへどかどか侵入して来た。「患者と云ふのはあなたですな。」と医者は彼を一目で判断した。
「いや、僕は胃腸が悪いことは事実ですが、まだコレラには罹ってゐませんよ。」と彼は拙く弁解した。
「それでは一つ規則ですから避病院へ入って貰ひませう。」と巡査が云ふ。
「ハハハ、一体僕がどうしてコレラなのかしら。」
「駄目だ、匿したってちゃんとこちらにはわかってる。さあ入院の支度し給へ。」
「詳しい診断はとにかく避病院へおいでになってからにしませう。」と医者も急かす。彼の女房はわーと泣き出した。そのうちに自動車が迎へに来る。彼は啜泣く女房と二人で自動車に乗ると、窓から見る暑い街のアスファルトがこの世の見をさめではないかと思はれた。なに、屹度直ぐに戻れるとも思った。
避病院に着くと、彼はとんとんと廊下を通った。患者がぴんぴん歩けるので、看護婦は目を瞠った。
ともかく16号室に入れられて、今度は違ふ医者がやって来た。
「僕がどうしてコレラですか。」と彼が抗議すると、その医者は静かに肯いた。
「まあまあ。さう興奮なさるな、四五日経過してみて疑ひが晴れれば直ぐに退院させますから。」
彼は四五日したら、それこそほんもののコレラになりさうな気がした。ベットも天井もコレラ菌だらけの部屋のやうに思へた。
茫として時間が長かった。そして、やうやく夜になった。睡らうとすると、隣りの部屋が急にざわめき出した。誰かの息子の断末魔らしく、低く低く喘ぐ声がつづいてゐたが、突然母親らしい声が怒鳴り出した。