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TORENDIA

童話

本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

赤ん坊の視点を通し、世界の認識と自己の形成を綴る。言葉を持たない赤ん坊は、周囲の大人や動植物、部屋の造作を不可解な存在として捉える。空間の広がりや光、母の温もり、そして突如響く音楽や夢幻的な光景に揺れ動きながら、自身の存在と外界との境界を朦朧と意識していく。成長に伴う戸惑いや、未知なるものへの憧れを繊細な感覚で描き出し、未分化な意識が少しずつ確かな日常へと収束していく過程を、詩的な感受性をもって写し出す。

原民喜

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🎧 童話 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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人ががやがや家のうちに居た。そこの様子がよくは解らなかった。誰か死んだのではないかしらと始め思へた。生れたのだと皆が云った。誰が生れたのか私には解らない。結局生れたのは私らしかっった。

生れてみると、私はものを忘れてしまった。魚や鳥やけだものの形で闇のなかを跳ね廻ったり、幾世紀も波や風に曝されてゐたのは私ではなかったのか。

私は温かい布に包まれて、蒲団の上に置かれた。それが私には珍しかったが、同時頼にりなかった[#「同時頼にりなかった」はママ]。気持のいい時は何時までもさうして居たかったが、時々耐らなく厭なことがあった。家の天井とか、電燈とか、人間の声が私を脅した。眼が覚めて暗闇だと、また私は死んだのかなと思った。しかし、朝が来ると、私の周囲はもの音をたてて動くのであった。

私が母を覚えたのは大分後のことだった。母を知った瞬間は一寸不可解な気持だった。その顔は他人でもないし、私でもなかった、つまり突然出現した一つの顔であった。それから大分して後、父とか兄姉を識った。或る朧気な意識が段々私を安心せした[#「私を安心せした」はママ]。私一つがぽつんと存在するのではなく、私に似たやうなものが私の周囲にあって動く。しかし不思議なことに彼等はそれがあたりまへのやうな顔つきである。私は時々彼等の顔が奇異に見えた。

私の眼の前にある空間はもう不可避だった。空間にはさまざまの苦痛と快楽が混ってゐるやうに思へた。あまり長い間視凝めてゐると、眼が自然に瞬する。すると忽ち空間が新しくなった。が、次の瞬間にはやはりもとの空間だった。私はもう大分長い間生きて、生活にも慣れて来たやうだった。乳が足りて睡りが足りたので、恍惚と眼を空間に遊ばせてゐた。すると何処からか微風が走って来て、私の頬ぺたを一寸撫でた。私は微笑した。

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