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TORENDIA

焚いてしまふ

本文約1,000字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

中学三年の三学期、風邪を患った語り手は、二階の自室で静養する中で月光や日差しに触れ、病床に伏す独自の心境を抱く。病が癒え、日常生活に戻ることを促されるも、得体の知れない憂鬱を感じていた。ある日、学校を休んだ彼は、自らの内にあった正月から書き溜めた日記をすべて風呂の火に投じて焼き捨てる。燃えゆく日記のページを見つめながら、過ぎ去った日々の記憶や心象が煙となって消えていく様子を、静かな筆致で綴る。

原民喜

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🎧 焚いてしまふ / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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紀元節に学校の式を休んで、翌日もまた学校を休んだ。すると、その晩から熱が出て、風邪の気味になった。私は二階の一室に一人で早くから蒲団を被って寝た。ふと、目が覚めると畳の上に白紙のやうなものが落ちてゐる。それは雨戸の節穴から月の光が洩れて来てゐるのであった。私はわざと腕を伸してその光を掬ってみた。それから窓を開けた。もう夜明けらしく、月は西の空に冴えて居て、ひえびえとした大気が、屋根の霜とともに肌に迫って来た。私は寝衣の襟をひらいて、胸一杯さらけ出した。もっと病気が重くなれと云ふやうな自棄気味が、ふと月の光によってそそられたのである。

その日は昼前から熱が出て、それに咳なども加はった。私は階下で食事を了へるとすぐ二階の一室に転げて暮した。四時頃になると、西日がガラス戸一杯に差込んで、三畳の部屋は温室のやうに暖かになった。私は日の光に曝された蒲団の上で、本などを読んだ。

次の朝も早くから目が覚めた。すると、昨日と同じく畳の上に月の光が洩れて来た。額に手を置くと、熱く火照って居る。私は始めて、自分の病態の進んだのを後悔した。と云ふよりは妙にもの侘しく切ない気持がした。そろそろ窓を開けると、やはり西の空に月は皎々と照って居る。何故、冬の月は朝になってもあんなに燿るのだらう。私は寝衣一枚で窓側に立って慄へて居た。

一週間程して私の熱は下った。私は階下の炬燵にあたって暮した。母はもう明日からは学校へ行ってはどうだと云った。私も幾分そんな気になって居た。もう休みたいだけは休んだのだと思った。

だが、次の日も意気地なく休んでしまった。私は訳のわからぬ憂鬱を感じた。庭に出て薪を割ってみたが、気は紛れなかった。私は二階に閉籠って、日記帳を取上げた。

「こいつを焚いてしまはう。」

「こんなものがあるからいけないのだ。」と私は呟いた。

私は日記帳を提げて風呂竈のところへ来た。風呂の火に投げ込むと、日記帳は見るまに脹れて来た。やがて頁々がくるくる焦げて巻かれて、心に火が徹って行った。私のこの正月以来の日記が焚かれてゐる、詳しく書いた頁が燃えて居る。ふと私は妙な気になった。

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