TRENDIA CLASSIC

其中日記

種田山頭火

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花開時蝶来

蝶来時花開

七月廿六日

曇、雨、蒸暑かつた、山口行。

△心臓いよ/\弱り、酒がます/\飲める、――飲みたい、まことに困つたことである。

朝、学校の給仕さんがやつてきて、山口へ出張の樹明君からの電話を伝へる、――今日正午、師範学校の正門前で待つてゐる、是非おいでなさい、――そこでさつそく出かける、上郷駅まで歩いて、九時半の汽車で湯田へ。

千人風呂にはいつて髭を剃る、浴後一杯ひつかけることは忘れない、濡れて歩いて山口へ、予定通りに両人会合、二十銭の定食で腹をこしらへて、鈴木さん訪問、いつものやうに御馳走になる、冷し素麺がおいしかつた、それから、街をぶらついてゐると、幸か不幸か、伊東俊さんに邂逅、食堂から食堂へとうろついた、そしてさらに湯田で飲む、私たち二人は西村さんを尋ねあて、湯に入れて貰ひ、ビールを戴いた、むろん短冊や色紙は樹明君に煽動されて書きなぐつた、それからまた、祇園祭の人込を縫ひ歩き、最終のバスで帰庵、満月のうつくしさを賞する余裕もなく、ぐつすりと寝た、よくもあれだけ飲んだり食べたりしたものだ、そして無事におとなしく戻つてきたものだ、そのいづれも感心されてよい!

今日の印象、――今日の感想――

何となく心楽しい日(時々かういふ日がある、日々好日ではあるけれど)。

汽車がバスより高いとは(上郷から湯田まで、汽車賃十三銭、バスは十銭、このバスは安くて心地のよい道である、今日は満員つゞきで、とても乗れない)。

ガソリンカアの快さよ、逢ひにゆくにも飲みにゆくにも!

田舎の娘さんのハイカラぶりはあまりよくありませんね、ゼイタクは一しほみじめですよ。

マダムはシヤン、お嬢さんはスベタ、まことにお気の毒なことですが。

湯田はよいとこ。……

千人風呂五銭の享楽!

檻の猿、それをいつまでも見てゐる人々。

ボロ着て涼しく、安らかで朗らかで。

湯あがりの肌へ雨のかゝるも悪くない。

さみだれて濁り湛へた水(といつても差支あるまい)からぼちやんと跳ねては大鯉のあそび。

梅雨のやうな土用、しかし鰻は、せめて鰌でも食べたいものですね。

糸米の山口が今日は殊によかつた、山口の山はうつくしい、含蓄があつて親しみがある。

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