唐土の山の彼方にたつ雲は
ここに焚く火の煙なりけり
一月一日
・雑草霽れてきた今日はお正月
・草へ元旦の馬を放していつた
・霽れて元日の水がたたへていつぱい
けふは休業の犬が寝そべつてゐる元日
・椿おちてゐるあほげば咲いてゐる
・元日の藪椿ぽつちり赤く
・藪からひよいと日の丸をかかげてお正月
・お宮の梅のいちはやく咲いて一月一日
・空地があつて日が照つて正月のあそび
湯田温泉
・お正月のあつい湯があふれます
年頭所感
・噛みしめる五十四年の餅である
ぐうたら手記 覚書 □底光り、人間は作品は底光りするやうにならなければ駄目だ、拭きこまれたる、磨きあげられたる板座の光、その光を見よ。 □平凡の光、凡山凡水、凡山凡境、それでよろしい。 ※[#二重四角、258-12]自然現象――生命現象――山頭火現象[#「――山頭火現象」は底本では「――山頭火現象」]。 ※[#二重四角、258-13]自己のうちに自然を観るといふよりも、自然のうちに自己を観るのである(句作態度について)。 ※[#二重四角、258-14]したい事をして、したくない事はしない――これが私の性情であり信条である、それを実現するために、私はかういふ生活にはいつた(はいらなければならなかつたのである)、そしてかういふ生活にはいつたからこそ、それを実現することが出来るのである、私は悔いない、恥ぢない、私は腹立てない、マガママモノといはれても、ゼイタクモノといはれても。…… □自己の運命に忠実であれ、山頭火は山頭火らしく。 清丸さんに
・こゝのあるじとならう水仙さいた
・こゝに舫うてお正月する舳をならべ
坊ちやん万歳
・霜へちんぽこからいさましく
霜晴れの梅がちらほらと人かげ
・耕やすほどに日がのぼり氷がとける
足音、それはしたしい落葉鳴らして(友に)
・みんないんでしまへばとつぷりと暮れる冬木
・ふけてひとりの水のうまさを腹いつぱい
一月十一日 晴、あたゝかい。
近頃の食物の甘さ――甘つたるさはどうだ、酒でも味噌でも醤油でもみんな甘い、甘くなければ売れないさうだが、人間が塩を離れて砂糖を喜ぶといふことは人間の堕落の一面をあらはしてゐると思ふが如何。