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TORENDIA

当流比較言語学

本文約3,300字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

独逸語と日本語の対照を通じ、特定の単語が存在しない言語的背景を考察する随筆。努力家を指すStreberや道義的憤怒を意味するsittlicheEntrüstungには、独逸語特有の嘲りや気恥ずかしさのニュアンスが含まれるが、日本語には対応する言葉がない。また、自らを滑稽な存在にすることを極端に避ける西洋文化に対し、日本人がそれを平然と行う精神構造を、言語の有無から浮き彫りにし、日本人の気質や道徳観を論じる。

森林太郎

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🎧 当流比較言語学 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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或る國民には或る詞が闕けてゐる。

何故闕けてゐるかと思つて、よく/\考へて見ると、それは或る感情が闕けてゐるからである。

手近い處で言つて見ると、獨逸語に Streber といふ詞がある。動詞の streben は素と體で無理な運動をするやうな心持の語であつたさうだ。それからもがくやうな心持の語になつた。今では總て抗抵を排して前進する義になつてゐる。努力するのである。勉強するのである。隨て Streber は努力家である。勉強家である。抗抵を排して前進する。努力する。勉強する。こんな結構な事は無い。努力せよといふ漢語も、勉強し給へといふ俗語も、學問や何か、總て善い事を人に勸めるときに用ゐられるのである。勉強家といふ詞は、學校では生徒を褒めるとき、お役所では官吏を褒めるときに用ゐられるのである。

然るに獨逸語の Streber には嘲る意を帶びてゐる。生徒は學科に骨を折つてゐれば、ひとりでに一級の上位に居るやうになる。試驗に高點を贏ち得る。早く卒業する。併し一級の上位にゐよう、試驗に高點を貰はう、早く卒業しようと心掛ける、其心掛が主になることがある。さういふ生徒は教師の心を射るやうになる。教師に迎合するやうになる。陞進をしたがる官吏も同じ事である。其外學者としては頻に論文を書く。藝術家としては頻りに製作を出す。えらいのもえらくないのもある。Talent の有るのも無いのもある。學問界、藝術界に地位を得ようと思つて骨を折るのである。獨逸人はこんな人物を Streber といふのである。

Moritz Heyne の字書を開けて見ると、Bismarck の手紙が引いてある。某は中尉で白髮になつてゐるのだから、Streber であるのも是非が無いといふやうな文句である。此例も明白に嘲る意を帶びてゐる。

僕は書生をしてゐる間に、多くの Streber を仲間に持つてゐたことがある。自分が教師になつてからも、預かつてゐる生徒の中に Streber のゐたのを知つてゐる。官立學校の特待生で幅を利かしてゐる人の中には、澤山さういふのがある。

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