TRENDIA CLASSIC

其中日記

種田山頭火

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昭和十一年(句稿別冊)

七月二十二日 曇、晴、混沌として。

広島の酔を乗せて、朝の五時前に小郡へ着いた。

恥知らずめ! 不良老人め!

お土産の酒三升は重かつたが、酒だから苦にはならなかつた、よろ/\して帰庵した。

八ヶ月ぶりだつた、草だらけ、埃だらけ、黴だらけだつた、その中にころげこんで、睡りつゞけた。

七月廿三日 曇。

夜も昼もこん/\睡りつゞけてゐたが、夕方ふつと眼覚めて街へ出かけた。……

雨、風、泥酔、自棄。

天地も荒れたが私も荒れた。……

とう/\動けなくなつて、I屋に泊つた。

七月廿四日 五日 六日

何ともいへない三日間だつた、転々してゐるうちに明けたり暮れたりした。

病める樹明君を見舞ふことも出来なかつた、あゝすまない、すみません。

七月廿七日 晴。

暴風一過、けろりと凪いだ。……

身心すぐれない、罰だ、当然すぎる当然だ。

黎々火君来訪、ありがたかつた(心中恥づかしかつた)、おべんたうを貰つてうれしかつた。

身辺整理。

書かなければならない、しかし書きたくない手紙を二つ書いた。

夜は自責の念にせまられて眠れなかつた。

七月廿八日 曇。

元気なし、あたりまへだ、歯痛痔痛同時に起る、あたりまへだ。

身辺整理、整理、整理、整理。

虫の声がしめやかに。

孤独の不自然。

寝床があつて、米があつて、本があつて、そして酒があるならば。――

夜中に眼が覚めて、秋を感じた。

七月廿九日 晴。

ぐつすり寝たので、だいぶ身心こゝろよし。

出頭没頭五十五年の悔だけが残つてゐる。

身のまはり家のまはり、きたない、きたない。

暑苦しい日々夜々。

午後、樹明君に招かれて宿直室へ出かける、久しぶりに、ほんたうに久しぶりだつたが、かなしいかな、彼は飲めない、衰弱した様子が気の毒とも何ともいへない、すまないけれど私だけ飲んだ、駅辨も御馳走だつた。

寝物語がいつまでも尽きなかつた。

孤独は求むべきものではない、求めてはならない、太陽は孤独だといつて威張る人がある、負け惜しみは止したがよい、人間は星屑のやうに在るべきものである。

七月三十日 晴。

早朝帰庵。

今日も身辺整理。

歯痛、樹明君の盲腸と私の歯とはおなじやうなものだ、共に役立たないもののために苦しみ悩まされる。

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