TRENDIA CLASSIC

其中日記

種田山頭火

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知足安分。

他ノ短ヲ語ル勿レ。

己ノ長ヲ説ク勿レ。

応無所住而生其心。

独慎、俯仰天地に愧ぢず。

色即是空、空即是色。

誠ハ天ノ道ナリ、コレヲ誠ニスルハ人ノ道ナリ。

一月一日 晴――曇、時雨。

午前中は晴れてあたゝかだつたが、午後は曇つて、時雨が枯草に冷たい音を立てたりした。

――別事なし、つゝましくおだやかな元日であつた(それが私にはふさはしい)。

賀状いろ/\、今年は少い、緑平老よ、ありがたう、独酌のよろしさ(鰯の頭をしやぶりながら!)。

餅もある、餅のうまさが酒のうまさを凌がうとする。

終日、独坐無言。――

一月二日 晴れたり曇つたり、しぐれたり。

をり/\しぐれてしめやかな一人正月であつた。

今日は新聞のない日(関西の新聞聯合申合で休刊)、そのことだけでもさびしい/\。

――求めず(たとへば平安を)、貪らず(たとへばアルコールを)、あるがまゝに、なるがまゝに生きぬかう。

今日も独坐無言だつた!

一月三日 曇。

寒気りんれつ、小雪ちらほら。

炭火のうれしさ、餅のおいしさ(今朝は食べる物がないので、仏壇のお供餅を頂戴した)。

鶲がさびしさうに啼いて遊ぶ、さびしいお正月だ。

午後、米買ひに街へ出かける、寒いことだけが正月風景らしい、今年最初のコツプ酒一杯!

今日も独坐無言のつもりだつたが、夕方になると、たうとうやりきれなくなつて、湯田温泉へ、――S屋に泊る。

途上で、美しい兄妹風景を見た、そして宿屋では、あさましい痴情風景を見せつけられた。

夜は同宿の植木屋老人に誘はれて諸芸大会見物、二十銭の馬鹿笑である。

咳が出て困る、感冒がこぢれてどうやら喘息らしくなる、睡れないのは苦しいが、苦しくてもこらへる外ない。

一月四日 曇。

早朝、入浴して、そして二三杯ひつかける。

身心何となく不調、焼酎のたゝりらしい、慎むべきは火酒を呷ることだ、省みて、自分の不節制に驚く。

午後、無事帰庵。

やつぱり自分の寝床がどこよりもよろしい!

朝湯極楽 朝酒浄土

醒めりや地極の鬼が来る

個人を不幸にするもの、私を意味なく苦悩せしめるものは――

暴飲

借金

今年の私はこの二つの悪徳から脱却しなければならない。

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