TRENDIA CLASSIC

震災日誌

喜田貞吉

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大正十二年九月一日関東地方に起った大地震は、未曾有の大災害を東京・横浜その他の都邑に及ぼした。いずれこの大変事については、新聞・雑誌が争うて精しい報道に努めるであろうし、また纏まった書物も後には少からず発行されることであろうから、一般のことはすべてこれを省略して、ただ自分が直接見聞関知したことのみを、今日から筆に任せて書きとめておこうと思う。

九月一日夜、炎煙東京の半ばを蔽うの時、瓦落ち壁崩れた小石川東青柳町の宅にて。

●土塵濛々  九月一日(土)震災第一日。『社会史研究』九月号の校正は一昨日をもって終え、十月号の編輯に着手したのは昨日の午後であった。「蝦夷の宝器鍬先の考」の一編はすでに出来ている。「伊勢人考」も旧稿を捻ねくって間に合わすこととして、いま一編短いものをと昨夕方から書斎に籠って、ほとんど夜を徹して寝床の中で、「紀伊に特有の何楠といふ人名」という小編を書き上げたのは朝の四時ごろであった。それからヤット眠りについて、九時ごろに起き出て、枕頭には例によって多くの参考書やら、寄稿家諸氏からお預りの原稿やらを、すべて開けっぱなしのままに、また寝床も延べっぱなしのままに、朝食後隣家の歯科医M君をお訪ねした。

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