TRENDIA CLASSIC
火の用心の事
泉鏡太郎
1 / 14
紅葉先生在世のころ、名古屋に金色夜叉夫人といふ、若い奇麗な夫人があつた。申すまでもなく、最大なる愛讀者で、宮さん、貫一でなければ夜も明けない。
――鬘ならではと見ゆるまでに結做したる圓髷の漆の如きに、珊瑚の六分玉の後插を點じたれば、更に白襟の冷、物の類ふべき無く――
とあれば、鬘ならではと見ゆるまで、圓髷を結なして、六分玉の珊瑚に、冷なる白襟の好み。
――貴族鼠の高縮緬の五紋なる單衣を曳きて、帶は海松地に裝束切模の色紙散の七絲……淡紅色紋絽の長襦袢――
とあれば、かくの如く、お出入の松坂屋へあつらへる。金色夜叉中編のお宮は、この姿で、雪見燈籠を小楯に、寒ざきつゝじの茂みに裾を隱して立つのだから――庭に、築山がかりの景色はあるが、燈籠がないからと、故らに据ゑさせて、右の裝ひでスリツパで芝生を踏んで、秋空を高く睫毛に澄して、やがて雪見燈籠の笠の上にくづほれた。
「お前たち、名古屋へ行くなら、紹介をして遣らうよ。」
泉鏡太郎の他の作品
TRENDIA CLASSIC
熱海の春
泉鏡太郎
熱海の春
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
麻を刈る
泉鏡太郎
麻を刈る
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
淺茅生
泉鏡太郎
淺茅生
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
飯坂ゆき
泉鏡太郎
飯坂ゆき
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
霰ふる
泉鏡太郎
霰ふる
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
雨ふり
泉鏡太郎
雨ふり
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
十六夜
泉鏡太郎
十六夜
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
一席話
泉鏡太郎
一席話
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
印度更紗
泉鏡太郎
印度更紗
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
畫の裡
泉鏡太郎
畫の裡
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
艶書
泉鏡太郎
艶書
泉鏡太郎
TRENDIA CLASSIC
大阪まで
泉鏡太郎
大阪まで
泉鏡太郎