本文へ移動
TORENDIA

十六夜

本文約8,400字 ・ 読了時間 約17分

あらすじ(AIが作成しました)

関東大震災直後の東京を舞台に、度重なる余震や暴風雨といった極限の環境下で、不安を抱えながらも懸命に日常を営もうとする人々の姿を描く。作者は被災した街で目撃した避難者たちの気丈な振る舞いや、火事の恐怖と対峙する町内の緊迫した様子を綴る。十六夜の月の光が、理不尽な災害に翻弄されながらも生きる人々の心を慰める様子を通じて、大震災後の張り詰めた生活と、その中で見出すささやかな希望や安らぎを叙情的に記録した小篇である。

泉鏡太郎

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 11

一

きのふは仲秋十五夜で、無事平安な例年にもめづらしい、一天澄渡つた明月であつた。その前夜のあの暴風雨をわすれたやうに、朝から晴れ/″\とした、お天氣模樣で、辻へ立つて日を禮したほどである。おそろしき大地震、大火の爲に、大都は半、阿鼻焦土となんぬ。お月見でもあるまいが、背戸の露草は青く冴えて露にさく。……廂破れ、軒漏るにつけても、光りは身に沁む月影のなつかしさは、せめて薄ばかりも供へようと、大通りの花屋へ買ひに出すのに、こんな時節がら、用意をして賣つてゐるだらうか。……覺束ながると、つかひに行く女中が元氣な顏して、花屋になければ向う土手へ行つて、葉ばかりでも折つぺしよつて來ませうよ、といつた。いふことが、天變によつてきたへられて徹底してゐる。

女でさへその意氣だ。男子は働かなければならない。――こゝで少々小聲になるが、お互に稼がなければ追つ付かない。……

泉鏡太郎の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本