ねむい
本文約5,900字 ・ 読了時間 約12分
あらすじ(AIが作成しました)
子守り娘のワーリカは、主人の赤ん坊の泣き声と、休む暇もない奉公の激務により極度の眠気に苦しんでいる。彼女の意識は疲労で混濁し、過酷な現実と幻覚の境界が曖昧になる。夜通し赤ん坊をあやし、眠れば主人夫婦から罵倒されるという恐怖の中で、ワーリカは日々の生活を圧迫する苦しみから逃れる方法を見出す。彼女は、自分を縛り付けていた原因が赤ん坊であると考え、それを排除することで、ようやく安らかな眠りへと落ちていく。
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夜ふけ。十三になる子守り娘のワーリカが、赤んぼの臥ている揺りかごを揺すぶりながら、やっと聞こえるほどの声で、つぶやいている。――
ねんねんよう おころりよ、
唄をうたってあげましょう。……
聖像の前に、みどり色の燈明がともっている。部屋の隅から隅へかけて、細引が一本わたしてあって、それにお襁褓や、大きな黒ズボンが吊るしてある。燈明から、みどり色の大きな光の輪が天井に射し、お襁褓やズボンは、ほそ長い影を、煖炉や、揺りかごや、ワーリカに投げかけている。……燈明がまたたきはじめると、光の輪や影は活気づいて、風に吹かれているように動きだす。むんむんする。キャベツ汁と、商売どうぐの靴革のにおい。
赤んぼは泣いている。さっきから泣きつづけで、もうとうに声がかれ、精根つきているのだけれど、あい変らず泣いていて、いつやまるのかわからない。ワーリカは、ねむくてたまらない。眼がくっつきそうだし、頭は下へ下へと引っぱられて、首根っこがずきずきする。まぶたひとつ、唇ひとつ、うごかすこともできず、まるで顔がかさかさに乾あがって木になって、頭は留針のあたまみたいに、縮まったような気がする。
「ねんねんよう、おころりよ」と、彼女はつぶやく、「お粥をこさえてあげましょう。……」
煖炉のなかで、コオロギが鳴く。となりの部屋では、ドアごしに、主人と従弟のアファナーシイのいびきが、間をおいてきこえる。……揺りかごは悲しげにきしり、当のワーリカはぶつぶつつぶやく――それがみんな一つに溶けあって、夜ふけの寝んねこ唄を奏でているのを、寝床に手足をのばして聞いたら、さぞ楽しいことだろう。ところが今は、せっかくのその音楽も、いらだたしく、くるしいだけだ。というのは、うとうと眠気をさそうくせに、眠ったら百年目だからだ。まんいちワーリカが寝こんだら最後、旦那やおかみさんに、ぶたれるだろう。