TRENDIA CLASSIC

ママ先生とその夫

岸田國士

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奥居町子  聖風学園の経営者

同 朔郎  その夫

花巻篠子  変死せる児童の母

有田道代  教師

富樫    篠子の甥と称する男

尾形    嘱託医

角さん   小使

たい    その妻

かず    篠子の女中

運転手

その他男女の生徒多勢

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東京に近いある新開田園都市の一隅。赤松の自然林を切り開いて、木造平屋のバラツク大小二棟と、二階建の住宅一棟――これが、奥居町子の経営する聖風学園とその附属建築物である。

屋外の授業場――四人共同の腰掛と机が並び、その正面に黒板が立てかけてある。黒板の前に立ち、白墨の字を消しながら、十人足らずの生徒に話しかけてゐるのが、教師の有田道代である。二十四五の目立たない女。

道代  それで、黒白を弁ぜずといふ意味はわかりましたね。もう一度云ひますが、黒白といふのは物事の善し悪しといふことです。黒が悪い方で、白が善い方……。いゝですか。お腹が黒いといへば、性のよくない人間といふことになるでせう。心に穢れがないことを潔白と云ひます。潔白ですね。それでは、今日の授業はこれで終ります。今からお昼の鈴が鳴るまで、ママ先生のお話があるさうですから、しばらくさうしていらつしやい。

生徒は十歳から十三四歳までの男女であるが、何れも所謂「良家の子弟」らしき風貌を具へ、中には、一見低脳児と見える某子爵の三男も交つてゐる。教師の話がすむと、あるものは起ち上り、あるものは隣りへ悪戯をしかけ、筆筒をカチャカチャいはせ、「先生! 御不浄へ行つてもよろしうございますか」と問ひ、いつ時、騒然となるが、やがて彼等にママ先生と呼ばせてゐる奥居町子が、静々とそこに現はれる。

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