ママ先生とその夫
本文約21,000字 ・ 読了時間 約43分
あらすじ(AIが作成しました)
東京近郊の聖風学園を経営する奥居町子と、その夫である朔郎の人間模様を描く。教育方針を巡る混乱や嘱託医の指摘、そして自身の甥を伴い訪れる児童の母・花巻篠子との対峙を通じて、学園内には複雑な緊張が漂う。朔郎は教師の有田道代との間で葛藤を深め、自身の立ち位置に苦悩する。やがて町子は、朔郎と道代の学園離脱を生徒たちに告げる。学校という閉ざされた環境で交錯する大人たちの情愛と葛藤の物語。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
奥居町子 聖風学園の経営者
同 朔郎 その夫
花巻篠子 変死せる児童の母
有田道代 教師
富樫 篠子の甥と称する男
尾形 嘱託医
角さん 小使
たい その妻
かず 篠子の女中
運転手
その他男女の生徒多勢
[#改ページ]
東京に近いある新開田園都市の一隅。赤松の自然林を切り開いて、木造平屋のバラツク大小二棟と、二階建の住宅一棟――これが、奥居町子の経営する聖風学園とその附属建築物である。
一
屋外の授業場――四人共同の腰掛と机が並び、その正面に黒板が立てかけてある。黒板の前に立ち、白墨の字を消しながら、十人足らずの生徒に話しかけてゐるのが、教師の有田道代である。二十四五の目立たない女。
道代 それで、黒白を弁ぜずといふ意味はわかりましたね。もう一度云ひますが、黒白といふのは物事の善し悪しといふことです。黒が悪い方で、白が善い方……。いゝですか。お腹が黒いといへば、性のよくない人間といふことになるでせう。心に穢れがないことを潔白と云ひます。潔白ですね。それでは、今日の授業はこれで終ります。今からお昼の鈴が鳴るまで、ママ先生のお話があるさうですから、しばらくさうしていらつしやい。
生徒は十歳から十三四歳までの男女であるが、何れも所謂「良家の子弟」らしき風貌を具へ、中には、一見低脳児と見える某子爵の三男も交つてゐる。教師の話がすむと、あるものは起ち上り、あるものは隣りへ悪戯をしかけ、筆筒をカチャカチャいはせ、「先生! 御不浄へ行つてもよろしうございますか」と問ひ、いつ時、騒然となるが、やがて彼等にママ先生と呼ばせてゐる奥居町子が、静々とそこに現はれる。