TRENDIA CLASSIC

命を弄ぶ男ふたり(一幕)

岸田國士

1 / 13

[#ページの左右中央]

人物

眼鏡をかけた男

繃帯をした男

[#改ページ]

鉄道線路の土手――その下が、材木の置場らしい僅かの空地、黒く湿つた土の、ところどころに、踏み躙られた雑草。

遠くに、シグナルの赤い灯。

どこかに、月が出てゐるのだらう。

眼鏡をかけた男――二十四五ぐらゐに見える――が、ぽつねんと、材木に腰をかけてゐる。考へ込む。

溜息をつく、洟をかむ。眼鏡を外して拭く。髪の毛をむしる。腕組みをする。服の皺を伸ばす。舌を出す。

繃帯をした男が現はれる。つまり、顔中繃帯で包んでゐるわけであるが、両方の眼と、鼻の孔と、口の全部、それだけが切り抜いてある。

眼鏡をかけた男の前を行つたり来たりする。そこに人がゐるのを知らないやうにも思はれる。土手の上にあがるが、すぐ降りて来る。

眼鏡  君、君、踏切はもつと先ですよ。 繃帯  (別段驚いた様子もなく)さうですか。踏切はもつと先ですか。(独言のやうに)踏切はもつと先……と(眼鏡をかけた男と並んで腰をかける) 眼鏡  どこかへいらつしやるんですか。 繃帯  行かうと思ふんですがね。君も、どつかへいらつしやるんですか。 眼鏡  行かうか、どうしようかと思つてるんです。 繃帯  なるほど。行くのもいゝが、どんなものですかね。うまく、一と思ひに、行けますかね。 眼鏡  さあ、行つて見ないことにや、わかりませんな。

(長い沈黙)

岸田國士の他の作品